bmr

bmr>FEATURE>H.E.R. interview / 新人賞を含むグラミー5部門ノミネートの新星が自らを語る

FEATURE

H.E.R. interview / 新人賞を含むグラミー5部門ノミネートの新星が自らを語る

まもなくの第61回グラミー賞にて、主要4部門中、新人賞とアルバム・オブ・ザ・イヤーの2部門にノミネートを受け、合計では5部門でノミネートを受けている21歳の新進女性R&Bシンガー/ソングライター/プロデューサー、H.E.R. (ハー)。ベールに包まれたこのミステリアスな新星を、彼女自身の言葉と共に読み解いていこう。

編集・独自質問・文/末崎裕之 hiroyukisuezaki

もはやその正体がギャビー・ウィルソン(Gabi Wilson)であることは隠し事でもなんでもなくなってきたが――H.E.R. (ハー)というミステリアスな女性R&Bシンガーの登場はちょっとした衝撃だった。

あれは2016年9月のこと。まったく無名、未知数の新人アーティストながら、デビューEP『H.E.R., Vol. 1』がRCA Recordsから発売されるや、アリシア・キーズ、アッシャー、ワイクリフ・ジョンなど数多くのアーティストたちがこぞってSNSで紹介し始めたのだから。これは、彼女をマネジメントしていたのが、アリシア・キーズを発掘したことでも知られるジェフ・ロビンソンであり、そのジェフ・ロビンソンや(RCAを抱える)ソニー側による“仕込み”によるもの(だろう)だったわけだが、そうしたプロモーション戦略もさることながら、DJ・キャンパー(DJ Camper)らをブレーンに据え、ブライソン・ティラー以降の「トラップ・ソウル」な作法で、メロウなR&Bを美しく聞かせる『H.E.R., Vol. 1』そのものの質の高さも目を瞠るものがあった。NPRが「あなたが聞き逃している2016年の必須R&Bアルバム5作」特集の筆頭に挙げたのも納得できる。

2017年にはEP第二弾『H.E.R., Vol. 2』、そして第三弾EP『H.E.R., Vol. 2 – The B Sides』と同時にこれまで発売した楽曲を網羅した全21曲のフル・アルバム『H.E.R.』を発表。同年11月には初めて自身がヘッドライナーを務めるツアーを敢行し、またフォーブス誌による「30 Under 30」(30歳以下の重要人物30組)の音楽部門で選出されるなど注目のアーティストだったが、本格的なブレイクは昨年、2018年だ。

マーシャ・アンブロージアスと共作した“My Song”の発表からスタートした2018年は、正式なファースト・アルバムの制作に専念するために、初日本公演を含むアジア・ツアーが中止になるといった残念な報せもあったが、8月に『I Used To Know Her: The Prelude』、11月に『I Used To Know Her: Part 2』とEP2作をリリース。そして、2018年はTV番組への出演などメディア露出が本格的に始まり、4月からは6月にかけてはTV番組や〈BET Awards〉などの舞台でダニエル・シーザーと共に“Best Part”を披露(〈BET Awards〉では“Focus”なども)。以前から業界内の評価は高く、たとえば『H.E.R., Vol. 1』からの“Focus”は2017年にリアーナが、2018年には女優ハリー・ベリーがInstagramで取り上げるなどのサポートを得ていたが、このように表に出る機会が増えた影響も大きかったのだろう、2018年10月にはアダルトR&Bエアプレイ・チャートで、“Focus”や“Best Part”が(エラ・メイの“Boo’d Up”を破って)首位に立った。そして12月、第61回グラミー賞にて、新人賞とアルバム・オブ・ザ・イヤーの主要2部門を含む、計5部門でのノミネートを受けたことが発表されたことで、H.E.R.への注目度はますます高まっている。

グラミー授賞式の開催まであと2週間。『H.E.R.』の初CD化となる日本盤が2月6日(水)に発売というところで、H.E.R.が日本のインタビューに応じてくれた。彼女自身の発言――日本向けのオフィシャル・インタビュー、そして2問だけ許されたbmr独自質問への回答――と共に、H.E.R.というミステリアスなアーティストの実像に迫る。

歌声そのものにフォーカスされた、90年代っぽいテイストのR&Bが求められている時代だと思う

まず、グラミー・ノミネーションに対する率直な感想を述べる。その吉報は、ちょっとしたサプライズ形式で知らされたようだ。

ニュースが報じられた時はちょうどツアーの最中だったんだけど、朝、マネージャーから電話がかかってきて、『これから、みんなで部屋に集まって欲しい。ツアーをキャンセルしないといけない事態になった。とにかく緊急だ』と言われて、『いったい何?』って感じだったの。何が起こっているのか訳が分からなくて。しかも、みんなすごく疲れていたしね。そうして集まってみたら、『グラミーにノミネートされた、5部門だ』と言われて。ニュースを聞いて泣いてる人もいたし、私も叫んじゃった。すごく素晴らしい瞬間だった。

(主要部門へのノミネートについては)クレイジー。私のアルバムは実質EPなわけで、よく考えたらヤバいし、恵まれているなと思う。それに、とってもクールなことだと思った

最初のEPから数えれば、デビューから2年とちょっとでのグラミー5部門ノミネート。間違いなく順調と言えるが、しかし、H.E.R.=ギャビー・ウィルソンとしては、もう少し長い道のりだった。なにせギャビーは、弱冠14歳でRCA Recordsの契約を勝ち取った天才少女だったのだから。

父親がカバー・バンドをやっていた関係で幼少期から音楽に触れ、父親のバンドでステージに立つこともあった……という経歴は、ブルーノ・マーズを少し連想させる。

パパはよく家でリハーサルをしてたから、ママのお腹にいた時から、常に音楽に囲まれているような環境だった。家にはドラムがあって、キーボードもあって、いつも家の中でカラオケしているような感じだったの。というか、家の中には音楽しかない、って感じで、音楽を通じて家族の絆もできていた。だから、小さい頃から歌うのが本当に自然だったの。楽器も自然と弾けるようになったし。

特に音楽活動を強制されたわけではなくて、ものごごろついたときから人前で歌うことが好きだった。父のおかげで、ミュージシャンを志したの

特にギターをメインの楽器として操るが、ピアノ、ドラムにも親しんだギャビー。11歳で「アメリカでもっとも才能のある子どものひとり」との呼び声も高く、2010年には、アンジー・ストーンの娘役として出演したTV映画『School Gyrl』が放送され、〈BET Awards〉やTV番組で歌を披露するなど早くから芸能活動を始めており、2011年に14歳の若さでRCAとのレコード契約を獲得。複数の楽器を操ることができるといった面から、プリンスとも比較する声が出るなど、注目の大型新人だった。学校との兼ね合いもあってじっくりと時間をかけて制作に臨み、2014年、アイズリー・ブラザーズの“Between The Sheets”を借用した“Something To Prove”でデビュー。“Good Girl”といったシングルも発表されたが、しかし一旦表舞台から離れる。そして1年ほどの雌伏を経て、H.E.R.として再デビューしたわけだ。

顔を出さないミステリアスなアーティストという立ち位置からすると皮肉めいた、「Having Everything Revealed」(すべてを明らかにさせる)の略という、その名前に込めた想いとは。

H.E.R.は私が作り出した匿名のキャラクターではあるけれど、中身は私そのもの。私の“別人格”ではないし、シンガー活動のために改めて発明した“人格”でもない。あなただって、18歳の時の自分と21歳の時の自分は違うでしょ? H.E.R.というのは、私が楽曲制作に対してもっと正直になれるように、匿名性を強調して作り上げたアーティスト。みんなが共通して陥ってしまうような困難な状況や、人間関係をどううまくやっていくか、逃げ出したいと気にどう対処すべきか……という状況を、“私の中の私”が歌で表現しているような感じなの。

自分の中にはいろんなバージョンの“私”がいるけど、それは全部、ひとつの”私“。そして、それを音楽で余すことなく表現したのがH.E.R.

今でこそ自信を持って「H.E.R.」について語っているが、H.E.R.としてデビューするにあたっては、葛藤や模索もあったようだ。

楽曲をリリースするということに対して、フラストレーションや不安な気持ちは正直あった。

私は、とても正直な気持ちで楽曲を作っていて。自分のやり方で、自分のストーリーを落とし込んでいたの。だから、曲を通して表現するってことを考えた時に、『アーティストとしてのアイデンティティはどうなっちゃうのかな?』って感じて。当時は18~19歳だったから、『曲を通して、私は何を表現すべきで、そこにはどんな意味を込めるべきだろう?』ということに悩んでいたの。

でも、制作の過程でやっと、その答えを見つけたって感じ。リスナーには、私のありのままを感じて受け入れてもらえればいいんだ、って。私の顔とか名前は別として。そう思ったら、制作に対してスッキリした気持ちで取り組むことができたし、どうやって(EPを)組み立てていくべきかも分かったの。こうすれば、きっとみんなにも気に入ってもらえる作品になるわ、って。

今では、それ以上の手応えを感じている。EPを出してからの間、本当にいろんなことが起きたし。しかも、すべてがオーガニックな形で起こったの。だから、あの時の自分の決断は間違ってなかったんだな、と証明できたと思うし、なるべくしてなった、自分は正しい判断をしたんだ、って思っている

H.E.R.は、ダニエル・シーザーとのデュエットの際にはローリン・ヒル&ディアンジェロの“Nothing Even Matters”のカバーを披露することも多いし、『I Used To Know Her: The Prelude』での冒頭は、“Lost Ones”のリメイクといった趣の“Lost Souls”なる曲で始まるなどローリン愛がチラホラ覗く。また、ギャビー・ウィルソン時代からアリシア・キーズを影響源のひとりに挙げており、当時は“If I Ain’t Got You”のカバーをよく歌っていた。『H.E.R., Vol. 1』ではフロエトリー“Say Yes”をサンプリングするなど、1997年生まれながら90年代後半~00年代前半のR&Bからの影響が感じられるが――狙ってやっている、ということでもないようだ。

なぜかは分からないな(笑)。私は、あまり年代で区切って音楽を聴いていなくて。何でも聴いてるし。それに、自分がすっごく昔に産まれたような気もしてる。だってオールドスクールなソウル・ミュージックも大好きなんだもん。私の家では、いろんな年代の音楽が溢れていたから、それが自然に自分のソウルとして出ちゃってるんだと思う。だから、両親や家族のお陰なのかもしれない

それでは、R&Bそのものについて彼女の意見を聞いてみよう。近年のヒップホップの勢いは至るところで語られているが、R&Bだって、エラ・メイやSZA、そしてH.E.R.を筆頭にいま盛り上がっている。

ヒップホップの勢いに比べてR&Bが取り残されているとは思わないけど、よりたくさんの人々がアーティスト性の強いR&Bを求めているんだな、と感じることはある。そこに特別な理由があるかどうか分からないけど、もっと歌声そのものにフォーカスされた、90年代っぽいテイストのR&Bが求められていると思うな。

あと、リスナーはもっとリアルな歌詞が聴きたいんだと思う。だから私のようなシンガーが人気を得ているんじゃないかと思うし、その状況にはとても感謝している

ニールセン・ミュージックは2018年のアメリカの音楽市場についての振り返りレポートの中で、ヒップホップの強さはもちろんのこと、女性アーティストの躍進についても触れていたが、「まるで、私たち女が業界をコントロールして、自分たちの手中に収めているように感じている」と、その勢いを彼女なりの言葉で形容してくれた。

2019年は始まったばかりだが、彼女が注力しているのはやはりまず、公式のファースト・アルバム――米Billboard誌が以前に報道した際は『I Used To Know H.E.R.』というタイトル――だ。「アルバムは確実に出る」とH.E.R.も太鼓判を押す。Billboardの報道ではダニエル・シーザーとの新たなコラボ曲もアルバムに収められるとされていたが、「近々コラボレーションしてみたいアーティストは?」との問いには、「たくさんいるけど、J・コールがナンバー・ワンね。大好きなの。後はミゲル」と回答した。いずれも、RCAの重役でもあるマーク・ピッツ率いるByStorm Entertainment所属のアーティストであり、実現の可能性が高いチョイスだ。

そして、ファースト・アルバムと共に彼女が今後の予定として意気込んでいるのが、ツアーだ。

もっとツアーをしたいと思っているの。まだ行った事のない国にも行くかも。日本にもすごく行きたい! 赤ちゃんの頃にフィリピンに行ったことがあるんだけど、アジアに行った経験自体がほとんどなくて

フィリピンというのは、彼女の母親がフィリピン系であるがゆえ。ぜひアルバムを引っ提げ、今度こそ来日公演を実現させてほしいものだ。

日本に行くのが待ちきれない! 日本にもファンがいるってことはSNSを通じて知っているの。ARIGATO!