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映画『キックス』特集パート2 / 黒人映画の新たな流れの中で

スニーカーを通じた黒人少年の成長物語。カリフォルニア州北部、サンフランシスコ・ベイエリアのゲットーを舞台にした映画『キックス(KICKS)』は、この12月1日から日本公開だ。特集第2回は、2010年代半ばからの「黒人映画の新たな流れ」という観点で、この映画を捉えてみる。

文/丸屋九兵衛(bmr)

>> 特集パート1 / 黒人街の現状を描く「フッド・ムービー」の最新形として

 2010年代半ばから、黒人映画は変わった。

 黒人監督による映画で、アメリカ国内で最高の興行収入をあげた作品は何か?
 実は……長らく、2000年の『最終絶叫計画』こと『Scary Movie』だったのだ! 例によってウェイアンズ兄弟の一人、キーナン・アイヴォリー・ウェイアンズが監督した、例によって「ジャンル丸ごとパロディ」。人種ネタも盛り込みながらホラー映画の定型を風刺し、後続シリーズを生み出した大ヒット作である。
 確かに面白い映画だし、「笑い」が黒人文化の中で重要な要素なのは否めない事実だ。それでも、「これが黒人監督による最高到達点とは……」という違和感を覚える人は、少なからずいたのではなかろうか。

 その『最終絶叫計画』の記録を打ち破ったのが、F・ゲイリー・グレイ監督による2015年作『ストレイト・アウタ・コンプトン』だった。続いてグレイ監督は、2017年作『ワイルド・スピード ICE BREAK』が――あれを黒人映画と呼ぶかどうかはともかくとして、黒人主演で黒人監督による作品には違いない――で、自らが打ち立てた記録を更新する。
 そして、この2018年には、ライアン・クーグラー監督が『ブラックパンサー』が、その記録を塗り替えた。

 もちろん、ウェイアンズ兄弟が旧勢力で、F・ゲイリー・グレイやライアン・クーグラーが新世代の監督……と明白に分けられるわけではない。グレイは、アイス・キューブの『Friday』も撮っていたわけだし。
 だが、ライアン・クーグラーの『ブラックパンサー』は新たな流れの中に位置付けられる超大作だった。コミック起源のヒーローものでありながら、女性キャラクターたちのヒロイズムが並大抵ではない。
 また、監督も主演俳優もアメリカ黒人(アフリカン・アメリカン)だが、目を向けている先はアメリカだけではない。「主人公がアフリカ某国の国王だから」というレベルではなく、実際にアフリカ人やアフリカ系イングランド人の俳優が参加して、「世界に広がるアフリカ系ヘリテッジの祝祭」のようなムードさえ漂わせていた。
 ひとことで言えば、そこには多様性の広がりがあったのだ。

 多様性といえば、近年の黒人映画で出色だったのは『ムーンライト』だろう。そこでの演技が評価され、第89回アカデミー賞にて助演男優賞を獲得したのがマハーシャラ・アリである。
 『ムーンライト』では近所の心優しいドラッグディーラー、『ドリーム』では近所の心優しい軍人。「オスカーを受賞した初めてのムスリム」であるマハーシャラ・アリは、黒人映画の新しい流れを象徴するような俳優であり、彼が顔を見せると「何か違う」という気がする。
 この『キックス』でも、主人公ブランドンの叔父さんにしてオークランドの心優しいギャングスタで、いい味を出してくれるのだ。

 振り返ってみれば。
 かつてのフッド・ムービーとて、主人公は「バリバリのギャングスタ」ではなかった。
 例えば、『Menace II Society』では凶暴なラレンツ・テイトではなく、そこそこ普通に生きているタイリン・ターナーが主役だ。『ジュース』でも、狂気に走っていく2パックではなく、DJを目指す地味なオマー・エップス。『ボーイズ’ン・ザ・フッド』でも、刑務所帰りのアイス・キューブではなく、ブティックでアルバイトする優等生キューバ・グッディングJr.が主人公だった。
 それでも、彼らは「黒人街の最大公約数的なキャラクター」の範疇に収まってはいた、という気がする。
 だが、『ムーンライト』は一線を越えた。8歳/16歳/20代後半と3つのピリオドに分けて描かれる主人公リトル/シャイロン/ブラックは、ゲイなのだから。
※正確には自分の性的指向を突き止められないままなので、LGBTQのQ(Questioning)というべきか

 『ムーンライト』の公開当時、「主人公が黒人であることは大した問題ではない(だって白人は出てこないから)」と書いたアホがいたが、もちろん主人公が黒人であること、そして舞台が黒人街であることこそが、一大トピックなのだ。ブラック・コミュニティにおいては長らく、同性愛者が激しい差別の対象だったのだから。
 なんにせよ、これらの作品でステレオタイプから大きく外れた「はみ出しもの」を主人公に据えるようになったのが、黒人映画の新たな時代を象徴しているような。

 この『キックス』も、最大公約数からはみ出した少年、ブランドンが主人公だ。
 自分の性的傾向に悩んでいる節こそないものの、その頼りなさ、自分が属するはずのコミュニティでの弱者ぶりでは、『ムーンライト』のリトル/シャイロンに近い。そして、劇中でも言及されるように「女の子のような外見」だし。
 さらには、ゲットーのストリートにつきものの暴力に関してずっと「受け手」だった彼が「攻める側」に回ることで、物語はクライマックスに雪崩れ込むわけで……これまた、『ムーンライト』を連想させる逆転劇。

 スニーカーという典型的なヒップホップ・アイテムを通じて、典型的でない少年の成長を描く物語、『キックス』。これまた、黒人映画の新しい流れを感じさせる逸品ではなかろうか。
 

『キックス』
12月1日(土)より、渋谷シネクイントにてロードショー ほか全国順次公開
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