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映画『キックス』特集パート1 / 黒人街の現状を描く「フッド・ムービー」の最新形として

カリフォルニアのゲットーに住む少年の成長物語を、スニーカーを通じて描く映画『キックス(KICKS)』が、この12月1日から日本公開される。bmrでは、この注目作を2回にわたって特集しよう。第1回は、「90年前後から脈々と続くフッド・ムービーの最新形」という観点から、この映画を考えてみる。

文/丸屋九兵衛(bmr)

 1996年に『Don’t Be a Menace to South Central While Drinking Your Juice in the Hood』という長いタイトルの映画があった。

 題名内に『Menace II Society』『South Central』『Juice』『Boyz n the Hood』を織り込んだ同作は、それらの作品のみにとどまらず、さらに『Above the Rim』『Poetic Justice』『New Jack City』『Higher Learning』『Do the Right Thing』『Jungle Fever』『Friday』等々、「あるジャンル」に属する映画をターゲットにしたパロディ盛り合わせ大作であり、同ジャンルを総決算するような怪作でもあった。
 そのジャンルとは。
 Hood films、いわゆる「フッド・ムービー」「フッドもの映画」である。

 フッド・ムービーとは何か。
 主に同時代のアメリカ合衆国都市部のフッドやゲットーを舞台に、黒人(時にはラティーノ)少年や青年たちを取り巻く過酷な環境を克明に描く映画群。彼らが経験する貧困、暴力、ギャングスタとの関わり、差別、家庭の問題、そして成長に伴う痛み……等々が主要なテーマとなる。そして、かなりの確率で、主人公もしくは仲間が悲劇的な死を遂げるのだ……。

 今こうやって書くと、陰々滅々として聞こえるのは事実である。だが、90年代前半はフッドもの映画の全盛期であり、その種の映画はアフリカン・アメリカンによって作られる/アフリカン・アメリカンを描く作品の中でも際立っていたのだ。
 先に挙げたもの以外には、『Jason’s Lyric』『Fresh』『Clockers』『Dangerous Minds』等が、そのジャンルに数えられるだろう。先ほどは「少年や青年」と書いたが、女性たちを主人公にした『Set It Off』という佳作もあった。
 また、当時はR&Bとヒップホップに置ける「サウンドトラック・ブーム」の絶頂期でもあった。同じくちょっとしたブームだった黒人ロマンティック・コメディ映画(例えば『Boomerang』や『Mo’ Money』など)と共に、フッド・ムービーは音楽と歩調を合わせ、ブラック・カルチャー史に一時代を築いたのである。

 多くのフッドもの作品で制作を担い、主演陣としても活躍したのはキーナン・アイヴォリー、デイモン、マーロン、ショーンらからなるウェイアンズ・ファミリー。そんなウェイアンズ一家が、自分たちもその隆盛に一役買ったフッド・ムービーに自らオトシマエをつけるかのごとく、その手の映画を笑いのめしたバカ喜劇……それが、先述の『Don’t Be a Menace to South Central While Drinking Your Juice in the Hood』だ。
 彼らウェイアンズ兄弟は、70年代の黒人アクション映画、いわゆる「ブラックスプロイテーション」ものに対しても、愛を込めつつ引導を渡したことがある。88年の『I’m Gonna Git You Sucka』だ。それに比べると、ずいぶんと早いタイミングでのパロディ化だったわけだが。

 こうして笑い倒されたフッド・ムービーは、死に絶えた……わけではない。
 何と言っても、タイリース主演の『Baby Boy』(01年)がある。
 『Boyz n the Hood』を監督したジョン・シングルトン自身が、「同作の後継作を」と構想した作品だ。もともとは2パック主演を意図して企画されたものの、彼の死後は頓挫していた企画である。そこに抜擢され、(青臭いながらも)名演を披露したことをきっかけに、タイリースは俳優としての道を歩み始め……今に至る。
 他に、『Paid in Full』(02年)、『Waist Deep』(06年)なども、「00年代のフッド・ムービー」と言えるだろう。
 こうしてアメリカは折に触れてフッドものを復活させ、これが黒人映画界の最強フォーマットの一つであることを我々に教えてくれるのだ。

 その系譜に連なる最新作が、『キックス(KICKS)』である。
 カリフォルニア州北部、サンフランシスコ・ベイエリアの都市リッチモンドを舞台にした『キックス』は――タイトル通り――靴にまつわる物語だ。
 靴をシューズではなく、さりとてスニーカーでもなく、キックスと呼ぶ。それは、ヒップホップ・コミュニティが靴を自文化に欠かせざる構成要素と認識したから。サングラスをシェイド、髪型をフェイド、クルマをライドと呼んできたのと同じく。

 少年から大人へ、子供から男へ。そんなボーイズ・トゥ・メンな階段を駆け上る主人公が、憧れの対象であり、地位の象徴でもある「キックス」を手に入れたことで経験する事件。この映画が描かれることを要約するとそうなるが、それは同時に、黒人街を舞台にした恵まれない少年の成長物語でもあって。そこには危険があり、葛藤があり、大人になるための通過儀礼がある。
 『Baby Boy』のさらにベイビー・ボーイ・バージョンと言おうか。まさに新時代のフッド・ムービーではないか。

>> 特集パート2 / 黒人映画の新たな流れの中で

『キックス』
12月1日(土)より、渋谷シネクイントにてロードショー ほか全国順次公開
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