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SY SMITH interview / 「アンダーグラウンド・ソウルの女王」が語る新作、そして音楽業界の今

ホイットニー・ヒューストンのバックコーラスを経験し、アリ・シャヒード、クリス・デイヴ、フォーリン・エクスチェンジ、ミシェル・ンデゲオチェロ、シーラ・E、ブラン・ニュー・ヘヴィーズからクリス・ボッティに至るまであらゆるアーティストたちに愛されるミュージシャンズ・ミュージシャン。「アンダーグラウンド・ソウルの女王」とも謳われる才女が、6年ぶりの新作『Sometimes A Rose Will Grow In Concrete』をついに発表した。今回は初めて自ら全曲をプロデュースし、ジャズにも挑んだ意欲作。クリス・ボッティの公演でちょうど来日していた彼女をキャッチし、この新作について、そしてクリス・デイヴとの関係や、インディ・ソウル、女性ミュージシャンたちが置かれている状況についてたっぷりと語ってもらった。

取材・文/末崎裕之 hiroyukisuezaki (bmr) 通訳/Kana Muramatsu

(⇒ P2より)

アルバムの中でも、“We Were Never Free”は後半に向けてどんどんファンク色が強まる――彼女がLAで公演をする時のバンド・メンバーでもある名手J・モーことジェイラス・モージー(Jairus “J. Mo” Mozee)のギターがひと際ファンキーだ――かと思ったら、最後にスロウダウンする構成でも耳を惹く。そして曲のメッセージは、重い。

元々曲を書いたときに、こういう構成にしていたの。曲の最後は、冒頭と同じに戻るでしょ。この曲は、メロディは綺麗だけど、歌詞の内容はすごくダークで。だから曲の最後は、良くも悪くも結果はこうなった、ということを象徴するような形にしたくて(こういう構成にした)

歌詞に『とてもきれいな花が飾られているけど、私たちは誰もこの花がどうやってそこに持ち込まれたかは分かっていない』って言っていて、店で売られている花は、花畑から切り取られたから店に置かれているのだ、という“システム”は、アフリカからブラック・ピープル(という花)が“切り取られて”、この西洋の世界という見知らぬ場所に置かれ、そこでやっていかなくてはならなかった状況と同じじゃないかという私の思いがあって、そういうメッセ―ジを直接言わずに伝えたものなの

この“We Were Never Free”からは、シーラ・Eのパーカッションがアフリカ大陸へと導くような“Catastrophe”へと続く。“We Were Never Free”に込めたメッセージと繋がっているのかと思いきや、これは意図していなかったのだそう。

自分でもそういう曲順になったのは意識してなかったんだけど、確かにそうね。無意識だったけど、そうなる運命だったのね(笑)

シーラ・Eとは、過去にバックコーラスをやっていた縁から今でも仲がいいようだ。昨年発表された『Iconic: Message 4 America』にもサイ・スミスは参加している。

そして、先述のJ・モーといい、クリス・ボッティ・バンドのドラマーとして共に来日もしていたリー・ピアソンといい、『Conflict』にも参加していたタイ・マックリンといい、本作に参加しているミュージシャンは全員が彼女の友人だ。

最高のミュージシャンたちが友人だと、ちょっと私のアルバムで演奏してくれない?って電話するとやってくれる。もちろん、やってもらったら今度は自分が力を貸すみたいに、助け合いね。いい友達がいるって本当に幸せなこと

「最高のミュージシャンたちが友人」……というのはまさしくミュージシャンズ・ミュージシャンであるサイならでは。たとえば、日本でも人気を誇るクリス・デイヴもそのひとりだ。サイ・スミスは、2013年の『The Drumhedz Mixtape』や、先日ついに発表したデビュー・アルバム『Chris Dave And The Drumhedz』にも参加しているが、彼との出会いはさらに遡る。

クリスと私はハワード大学に通ってたの。同じ時期にハワード大学にいたのは、クリス・デイヴ、エリック・ロバーソン、(ザ・ルーツ一派の)レイモンド・アングリー、ジーノ・ヤング……まだ他にもいたと思うけど。だからクリスはもうずっと昔から知ってて、連絡も取り合ってて。ミシェル・ンデゲオチェロのバンドでも一緒だったしね。

彼がミックステープを作り始めた時も、彼に呼ばれて参加したし、そしてやっと彼がアルバムを出した時は、もちろん自分が参加もしているわけだけど、『イェー!』って自分のことのように嬉しかった。何年もかけて制作したのを知っているから。ミックステープもアルバムも、彼の作品には全部参加してる

アルバムでは“Universal Language”にソングライター/ボーカルとして名前があるが、昔からの友人なだけあって、この曲がいつ頃制作されたかもはっきり覚えていないという。

たぶんかなり昔だと思う。この5年間でも、彼はいくつもトラックを送ってきたから、本当にいつ頃のものかは覚えていない(笑)。でもレコーディングしたのは2年前くらいなのかな

もうひとり、話を訊いておきたかったのが、これも名ドラマー。先日訃報が伝えられたンドゥグ・チャンスラー(Ndugu Chancler)のことだ。彼女は、ジョン・ビーズリー、ダリル・ジョーンズとのスリー・ブレイヴ・ソウルズというプロジェクトの2012年に発表されたアルバム『3 Brave Souls』に3曲で参加していた。

そう。3曲だったかな、ソングライティングも手がけてレコーディングして。一緒にショウをやりたかったな。単純にスケジュールが合わなくて実現しなかったの。とても悲しい。ンドゥグ・チャンスラーはとっても優しくて、人に尽くす素晴らしい人だった

『3 Brave Souls』への参加は、ジョン・ビーズリーから誘われたという。ジョン・ビーズリーとは、彼女がバックコーラスを務めていた時代のホイットニー・ヒューストンのミュージカル・ディレクターだったリッキー・マイナーを通じて以前から知り合いだったそうだ。ちなみにリッキー・マイナーは、自身が『アメリカン・アイドル』の音楽監督を務めていた時期に彼女を番組バンドのバック・コーラス隊に起用するなど、ずっと彼女に目をかけてきたメンター的存在だ。

レコード業界が風邪を引いているとするなら、インディペンデントのアーティストはインフルエンザに罹っている

話を、サイ・スミスの新作『Sometimes A Rose Will Grow In Concrete』に戻そう。今回の新作リリースにあたって、彼女は女性アーティストの楽曲ばかりを集めた「Concrete Roses – Queens Edition」というプレイリストをSpotifyに発表していた。女性の地位向上やエンパワーメントを意識したアルバムでもあるのだろうか。

そうね。私は女性だから、まず最初に女性のことを考えるというのもあるけど……(すぐそばにバンド・メンバーがいる楽屋での取材だったためか、声を潜めながら)音楽業界における女性というのは、何度も何度も男性の壁に立ち向かわなくてはならないチャレンジャーなの。あらゆる男性のエンジニア、プロデューサー、ミュージシャンたちに、私はミュージシャンだってことを証明しなくちゃいけない。女性がそういう環境にあるという意味では、エンパワーメントを意識している面もある。

でも、私の音楽を男性にはあてはまらないものだと思って聴いてほしくない。歌詞のメッセージはあなた(男性)にも共感できるものだと思うし、ぜひ一緒に歌ってほしい

ここで、先日のグラミー賞における女性のノミネーションが1割を切っているという批判に対して、レコーディング・アカデミーのニール・ポートナウが「女性たちはもっと頑張る必要がある」と言った発言についてどう思ったか聞いてみた。

“男”って感じ(笑)。彼はきっと自分が何を言ったのか、よく分かっていないんだと思う。でも、この世界で権力を持っている男性はみんなそういう風に考えがち。足の無い人に立て!って言っているようなもので、(女性の現状は)足が無いだけでもう立ってます、それが(男性に)見えていないっていうこと。女性にもエンジニアやプロデューサーはいて、曲を書ける女性もいる。でもそういう女性たちが男の子たちと同じ状況に立つことが自然と許されていない、そういういう状況を彼はそもそも理解していないのだと思う

とはいえ、「Concrete Roses – Queens Edition」のプレイリストは、女性の団結を表現しようという意図のものではない。「男性のコンクリート・ローズたち」の楽曲を集めた「Kings Edition」のプレイリストも後日公開予定だ。この男性アーティスト版には、本作にも参加したラッセル・テイラーや、前作『Fast and Curious』でも共演したラサーン・パターソンを始め、ウェス・フェルトン、ラヒーム・デヴォーン、ケニー・ラティモア、ゾーらの楽曲が収録されるという。

個人的に知っている友人で、共感できる人たち。アーティストとして私と同じような厳しい状況を闘い抜いている人たち」。つまり、インディペンデントで活動しているアーティストをサポートしたいという意志の表れだ。

まったくそう。私もインディペンデントのアーティストの難しさ、特にソロのインディペンデントのアーティストの大変さをよく知っているから。インディの音楽が出版物とか媒体で語られるとき、インディ・ロックについてはよく触れられても、インディ・ソウルについてはほとんど言及されない。だからそういう意味でも、機会があればいつもそういうインディ・ソロ・アーティストたちをサポートしたいと思っていて。もちろん、お互いに支え合おうということだけど

インディ・ソウルのアーティストたちの苦境について、詳しく彼女の見解を聞いてみる。90年代末から活動してきた彼女の目に、この音楽業界の大きな変化はどう映っているのだろうか。

そうね、何と言えばいいかな。レコード業界が風邪を引いているとするなら、インディペンデントのアーティストはインフルエンザに罹っている、という感じ(笑)。フィジカルCDが売れなくなっているのは私たちにとっては危機的状況。でも逆に、インディペンデントのアーティストも、メジャー・レーベルのアーティストたちと同じプラットフォームに並ぶことができるようになった。Spotifyだったりね。それも自分たちでコントロールできるようになった。メジャー・レーベルのアーティストと同じところで発売することだってできる。そういうプラットフォームは15年前には無かった。私たちの音楽をよりたくさんの人に知ってもらえるようになったし、いつどこでショウをやっているかをより簡単に知ってもらえるようになったのは、いい変化だと思う。

(インフルエンザの喩えは)特にフィジカルについてのことなんだけど……たとえば『Conflict』ではCDを2000枚プレスしたけど、今回は500枚になった(※彼女の公式サイトで購入可。でも、500枚ですら売り切れるかどうかも分からない。それから、これまでだったらアルバムを1枚作ったらライブをやったりで2年間やっていけたけど、今は、特にインディペンデントのアーティストの場合、収録曲の少ないEPを作って8ヶ月後にまたEPを作って……という感じで間を空けずにやっていかないとみんなの注目を引きつけておけなくなってるという状況もある

それでも彼女は、ポジティブさを失わない。「ちゃんと分かってくれている人と話すのは本当に好き。『歌い始めたのは教会ですか?』みたいな質問よりはるかに(笑)」とインタビューについて感謝の念を述べ、「世界中の人たちに聴いてもらえるのも嬉しいけど、あなたのようにこれだけ好きだと言ってくれることも同じくらい嬉しいから、本当にありがとう」と笑顔で伝えてくれた。

もうすぐキャリア20年となるサイ・スミスだが、音楽業界の状況が彼女たちにとって厳しさを増していく中にあっても、これからも美しい花を咲かせ続け、我々に見せてくれることだろう。彼女の新たな到達点を見せたこの素晴らしいアルバム『Sometimes A Rose Will Grow In Concrete』のように。

1. Perspective
2. Can’t Get Over You
3. Camelot
4. We Were Never Free
5. Catastrophe
6. i’ll always come back to you (a prelude)
7. Closer Than You Know
8. doowop with dad (a prelude)
9. Now And Later (Pocketful Of Joy)
10. suri speaks (a prelude)
11. Sometimes A Rose Will Grow In Concrete
12. it’s all in my mind (a reprise)