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SY SMITH interview / 「アンダーグラウンド・ソウルの女王」が語る新作、そして音楽業界の今

ホイットニー・ヒューストンのバックコーラスを経験し、アリ・シャヒード、クリス・デイヴ、フォーリン・エクスチェンジ、ミシェル・ンデゲオチェロ、シーラ・E、ブラン・ニュー・ヘヴィーズからクリス・ボッティに至るまであらゆるアーティストたちに愛されるミュージシャンズ・ミュージシャン。「アンダーグラウンド・ソウルの女王」とも謳われる才女が、6年ぶりの新作『Sometimes A Rose Will Grow In Concrete』をついに発表した。今回は初めて自ら全曲をプロデュースし、ジャズにも挑んだ意欲作。クリス・ボッティの公演でちょうど来日していた彼女をキャッチし、この新作について、そしてクリス・デイヴとの関係や、インディ・ソウル、女性ミュージシャンたちが置かれている状況についてたっぷりと語ってもらった。

取材・文/末崎裕之 hiroyukisuezaki (bmr) 通訳/Kana Muramatsu

「アンダーグラウンド・ソウルの女王」、あるいは「アンダーグラウンドR&Bの女王」などとも呼ばれるサイ・スミス。とは言うものの、彼女の名前は、知る人ぞ知る、といったところだろうか。インディ・ソウルの世界ではある種のスターではあるが、世間における評価や知名度は実力に見合っていない……というのは、昨年来日したエリック・ロバーソンについての記事で林 剛さんが書いていたことだが、その代表格は、男性がエリックなら、女性はサイ・スミスになるのではないだろうか。

サイ・スミスもまた、長いキャリアを誇る。奇しくも彼女もエリック同様にハワード大学出身だが、卒業後にLAに移った彼女は、バックコーラスやCM音楽の仕事を始めるようになった。初めての大きな仕事は、ホイットニー・ヒューストンのバックコーラスで、欧州ツアーにも同行している。

1999年にはHollywood Recordsと契約し、アリ・シャヒードらのバックアップを受けたネオ・ソウル系のアルバムを準備していたものの、残念ながらお蔵入りとなってしまうが、その才能は埋もれることなく、ブラン・ニュー・ヘヴィーズの2003年作『We Won’t Stop』でメイン・ボーカルに抜擢され、アリ・シャヒードの初ソロ・アルバム『Shaheedullah & Stereotypes』(2004年)に3曲でフィーチャーされた。ここでサイ・スミスの存在を知ったという人も少なくないだろう。

2005年にはインディ・レーベルからデビュー・アルバム(厳密にはセカンド・アルバム)『The Syberspace Social』を発表。アリ・シャヒードやジェイムス・ポイザー、ニコレイが参加した同作は、エレクトロニックな要素を取り入れた作風で、今の視点で見るとフューチャー・ソウルの先駆けと捉えることもできそうな傑作だ。このアルバムが絶賛されたことで、彼女のキャリアは本格的に始動したとも言えるだろう。一旦はお蔵入りした本来のデビュー・アルバム『Psykosoul』をボーナストラックを加えて正式に発売し、『The Syberspace Social』もアンソニー・ハミルトンが参加したボーナストラックを追加して再リリースされた。そして2008年には『Baduizm』への参加でも知られるタイ・マックリンらも関わった『Conflict』を、ダフト・パンク復活の1年前となる2012年にはマーク・ド・クライヴ・ロウと組んでブギー~ディスコにフォーカスした『Fast and Curious』と、サイ・スミスは常に素晴らしいアルバムを発表してきた。

またフォーリン・エクスチェンジ一派の作品では常連であるし、ミシェル・ンデゲオチェロから、クリス・デイヴやエリック・ロバーソンを始めとするハワード大の出身者たち~DMV勢まで、彼女の歌声を求めるオファーも多い。ジャズ・ギタリストのマーク・ホイットフィールドが従兄ということもあって、ジャズ界隈でも活躍し、中でも人気トランペット奏者のクリス・ボッティはこの10年間に渡って彼女をコーラスとして起用している。まさにミュージシャンズ・ミュージシャンなのだ。

……と前置きが長くなったが、この才女が、実に6年ぶりとなる新作『Sometimes A Rose Will Grow In Concrete』を2月16日に発表した。そして2月10日から5日間に渡ってブルーノート東京で開催されるクリス・ボッティ公演のためにちょうど来日中……とあっては、話を聞かないわけにはいかない。サイは快くインタビューに応じてくれた。

Sy Smith Sy Smith

チャカ・カーンみたいな声量のある歌手が大好きなんだけど、私にはあんな声が出せない。だから小さい頃から、ホーンのほうが私にとって近しく感じる音だった

クリス・ボッティでのステージを観たことがある人なら、サイ・スミスという人がいかにポジティブな空気を放ち、明るくフランクで、かつ優しい女性だということが何となく感じ取れるのではないだろうか。公演直前に行われたこのインタビュー、大いに盛り上がったこともあり、途中で当初の予定時間を過ぎてしまったのだが、なんと彼女のほうから「ちゃんと最後まで話したいから」と、ファースト・ステージが終わった後にまた戻り、セカンド・ステージまでの時間に続きをやらないかと提案してくれた。彼女が多くのミュージシャン、アーティストたちからオファーされるのは、実力や才能だけでなく、人柄も愛されているからこそなのだろう。

インタビューはまず、来日についての話から始めた。筆者は見逃したのではっきりと記憶していなかったが、初来日はやはりフランク・マッコムの来日公演に同行した時で、「2004年だったと思う。2004年の12月ね」とサイははっきり記憶していた。それからクリス・ボッティ公演で3度ほど来日し、今回で「4回目だと思う」と振り返った。

クリス・ボッティとはもう10年の付き合いだ。2008年9月にボストン・シンフォニー・ホールで行われたコンサートを記録したグラミー候補作『Chris Botti in Boston』の中でも言及されているが――スティング、キャサリン・マクフィ、ヨーヨー・マ、ジョシュ・グローバン、ジョン・メイヤー、スティーヴン・タイラーら豪華ゲストが参加したこの公演で彼女は“The Look Of Love”を歌っている――、当時のクリス・バンドのギタリストが従兄のマーク・ホイットフィールドであり、マークの推薦によって抜擢されたわけだが、クリス・ボッティは事前に彼女の歌を聴くことなく採用したのだという。

当時彼のバンドにいたマーク・ホイットフィールドが従兄で。クリスがシンガーが必要になった時に、マークが『だったら俺の従妹に連絡しよう』って提案してくれて。『本当に?』って話なんだけど。それでクリスのツアー・マネージャーから連絡が来たんだけど、クリスは私の歌声を聴いたことがなかったの。マークを信頼していたから。そしてアトランティックシティまで呼ばれて行って、それが最初のショウだったんだけど、サウンドチェックで初めて私の歌声を聴いて、『いいね』って言ったの(笑)

また、クリス・ボッティとの長きに渡って共演が続いていることについて、彼女はこう分析する。

私は昔からずっとホーンを吹きたくて、でも出来なくて。クラリネットを覚えようと思ったこともあったけど、上手くならなかった(笑)。でも子供の頃から、ホーンの音をよく声でモノマネしていたの。パラパパパラパパパ~!ってね(実際にしてみせる)。だからこうしてホーン奏者とギグをするって、なるほど道理だなって思う。筋が通ったというか。内心ではずっとホーンを吹きたいと思っていたわけだから(笑)

ホーンへの愛は、自分のことをしばらくシンガーだと捉えていなかったというサイ・スミスがよく口にすることだ。特にホーン・セクションに強く影響を受けたのだとか。

私が好きなのはホーン・セクション。アース・ウィンド&ファイアーだったり、昔のキャミオだったり、チャック・ブラウンとかのゴーゴー・バンドだったりのホーン隊が好き。個人だと、(ジョン・)コルトレーンやマイルズ(・デイヴィス)が大好きだけど、(ソロのプレイヤーではなく)基本的にはホーン・セクションがいいの・コモドアーズとか。

好きな理由? 私がシンガーとして、自分が大好きなシンガーたちのように歌えないからかな。チャカ・カーンみたいな声量のある歌手が大好きなんだけど、私にはあんな声が出せない。だから小さい頃から、ホーンのほうが私にとって近しく感じる音だった。どんな風に鳴ってるかを理解して、それっぽい音を出すことが(ホーンの音であれば)出来たから。

それから、ホーンを聴くと昔から、戦争に行進していくみたいな、高揚した気持ちになるの。いいホーンのラインを聴いたら、思わず立ち上がっちゃうみたいな(笑)

(⇒ P2へ 「今回のアルバムは今までで一番、私がどういうアーティストかを的確に写し取ったポートレートになった」

1. Perspective
2. Can’t Get Over You
3. Camelot
4. We Were Never Free
5. Catastrophe
6. i’ll always come back to you (a prelude)
7. Closer Than You Know
8. doowop with dad (a prelude)
9. Now And Later (Pocketful Of Joy)
10. suri speaks (a prelude)
11. Sometimes A Rose Will Grow In Concrete
12. it’s all in my mind (a reprise)