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Best of 2017 / bmrライター&ゲストが選ぶ2017年のベスト10作品

昨年、the year 2017。それは、アメリカ史上初めてヒップホップ/R&Bがロックを抜き、「全米最強の人気ジャンル」となった年。フィジカルCDどころかアルバムのダウンロード購入すら減少する中、ストリーミングや楽曲単位セールスで勢いを見せつけるラッパーやシンガーが躍進した年でもあった。社会の変化とテクノロジーの進歩に伴って消費のありかたは変わっても、チェンジング・セイムな魅力を放ち続ける我らがジャンル。そんな2017年のシーンを振り返って、bmr編集部員、執筆陣、ゲストが、それぞれの観点からベスト10を選出した。

文責/bmr編集部

(⇒P2:「林 剛のベスト・オブ・2017」より)

塚田桂子のベスト・オブ・2017

Jamila Woods 『HEAVN』

Open Mike Eagle 『Brick Body Kids Still Daydream』 Tyler, the Creator 『Flower Boy』 Kendrick Lamar 『DAMN.』

SZA 『Ctrl』 Jidenna 『The Chief』 Joey Bada$$ 『All-Amerikkkan Bada$$』

JAY-Z 『4:44』 Jacob Banks 『The Boy Who Cried Freedom』 Stormzy 『Gang Signs & Prayer』

1. Jamila Woods 『HEAVN』
2. Open Mike Eagle 『Brick Body Kids Still Daydream』
3. Tyler, the Creator 『Flower Boy』
4. Kendrick Lamar 『DAMN.』
5. SZA 『Ctrl』
6. Jidenna 『The Chief』
7. Joey Bada$$ 『All-Amerikkkan Bada$$』
8. JAY-Z 『4:44』
9. Jacob Banks 『The Boy Who Cried Freedom』
10. Stormzy 『Gang Signs & Prayer』

ヤシーン・ベイの引退劇に打ちひしがれて明けたわたしの2017年、最も心惹かれて繰り返し聴いたのが、間違いなくジャミーラ・ウッズの『HEAVN』だ。これは2016年に無料配信された後、あまりの絶賛振りに翌年晴れて商業リリースに至った作品。実に2年間コンスタントに聴き続けているこの作品の素晴らしさは、ふわっとして心地よいが芯が強いヴォーカルで歌い上げる、ポジティヴな自己肯定のメッセージにある。黒人コミュニティの様子やジャミラの心意気の高さが伝わってくるストーリーラインの中でも、“Holy”にはどれだけ勇気付けられたことか。聖書の教えを自己流にアレンジしたこの曲は、「自分は孤独ではなく独り」なのであり、「自分自身で在るだけで神聖」であると堂々と歌い上げる。まだまだ女性の人権が低い世の中で多くの女性の心に響く歌だと思うし、正にわたしの心のアンセムでもある。

ジャミーラに負けず劣らず楽しんだのが、同じくシカゴ出身のオープン・マイク・イーグルの『Brick Body Kids Still Daydream』だ。「アート・ラップ」と称する彼のスタイルは非常に独特で、知性とナーディなユーモア溢れる表情豊かなリリックとユニークな制作が、聴き手の感情に訴えかける。マイクが生まれ育ったロバート・テイラー・ホームズは、かつて全米一大きな高層プロジェクトだったが、極度の貧困による犯罪率の高さから取り壊され、ほぼ黒人が占める3万人近い住民たちは立ち退きを喰らい、その多くは命を失ったという。その被害者たちの想いや痛みを伝えるべく、ゲットーのスーパーヒーローの一員たるマイクが立ち上がり、ビルを人間の体として表現することで生き返らせたのが、ドキュメンタリー映画のような本作なのだ。ぜひ対訳&解説付きの日本盤を出して、来日していただきたい逸材No.1だ。

3位という地位にはそぐわないが、これまた負けずに心奪われたのが、日本盤で対訳も担当させていただいた、我らがタイラーの『(Scum Fuck) Flower Boy』だ。それまでの作品の人気は割りと彼のファン層に限られていたのに対し、2017年グラミー賞で最優秀ラップアルバムにもノミネートされた本作は、自らのアイデンティティを貫きつつ、より普遍的な内容で幅広い層を魅了したタイラーの最高傑作だ。なんと言ってもカラフルでドリーミーな楽曲作りが素晴らしい! ゲイ/バイ・カミングアウト説も話題になりつつ、自らの内観を正直にさらけ出したところも新鮮で、常に「自分らしくあることの正しさ」を鮮烈に証明してみせてくれるところは彼の最大の魅力だと感じるし、常にインスピレーションを与えてくれる。

4位以降は順位があってないようなものなのだが、こちらも日本盤で対訳を担当させていただいた、キング・ケンドリックの『DAMN.』を挙げないわけにはいかないだろう。時代と社会の空気を的確に投影した本作で、ついにグラミー最優秀ラップアルバム賞を受賞した際に、「次の世代、またその次の世代に向けて世界を進化させるためにキャンバスに絵を描いていく力を与えてくれたのがヒップホップ」と表現したように、彼のアートはアルバムを追うごとにコンプトンから世界のケンドリックに着実に成長を続けている。

2017年の夏はこのアルバムにあり、と断言できるほど、寝ても覚めてもこればかり聴いて陶酔していたのが、SZAの『Ctrl』だ。必ずしも自身のストーリーばかりで綴った曲ではないようだが、多くの女性が共感しまくりであろうストーリーのリアルさや鮮やかさ、その切なく艶やかな歌いっぷりには心底はまりまくった。彼女の才能を信じたTDEのパンチ社長にあらためて感謝したい。

確か松尾潔さんがツイッターで紹介されていた“Classic Man”を聴いて耳に止まり、アルバムを聴いて大ファンになってしまったのが、ナイジェリア人の父の影響を感じさせるジデーナの『The Chief』だ。ハーレム・ルネッサンスを思わせる伊達男振りでお洒落なイメージが先行していた“Classic Man”のMVだが、実は高校教師の経験を持ち、ハーバード大学にも合格した(実際はスタンフォード大学に入学)インテリであるジデーナが、黒人コミュニティで若者たちに教鞭を取る姿が意外で新鮮だった。彼のライブも最高なのでぜひ来日していただきたいのだが、いまいち日本では人気が低いようで残念だ。

ある意味1位的な存在と言っても過言ではないのが、黒人コミュニティの同胞たちを背負って立ち、アメリカの現実に意義を唱え、青春の青さと正義の赤い炎を感じさせるジョーイの『All-Amerikkkan Bada$$』には、思わず胸が熱くなる。実はこれ、自分は愛しているのに心からは愛してくれないアメリカへの憤りとジレンマも感じられ、切ない想いにもかられたり。

正直、大ファンだったわけではないジガさんの『4:44』、特に“The Story of O.J.”には、本当に度肝を抜かれた。若くてナンボの傾向を否めないヒップホップ界で、経済的にも商業的にも成功を遂げてトップに成長したからこそ語れる「大人のヒップホップ」の何たるか、「アメリカにおける黒人の現状」を、極めて鮮明にスキルフルに焙り出した名作と言えるし、ヒップホップの成熟も感じさせ、非常に感慨深い。

実はブルース好きのわたしの脳天を久しぶりにガツンと勝ち割ったのが、ブルージーでソウル満点のUKシンガー、ジェイコブ・バンクスの『The Boy Who Cried Freedom』だ。どこか懐かしいけど新しい彼の声の魅力は、いつかぜひライブでも味わってみたいものだ。今やUKのグライム/ヒップホップ・スターとなったストームジー『Gang Signs & Prayer』も、非常に印象に残った作品だ。元々はYouTubeでリリースされたフリースタイル“Shut Up”が人気を呼んだことから話題を呼んだストームジーは、出自のガーナを思わせる訛りにイギリス英語のアクセントが混じった独特のラップがとても新鮮だし、スター性溢れるカリスマも感じさせる。アメリカであまり耳にしないのが不思議なところだが。

他にも、シカゴ勢の勢いを感じさせるノーネームの『Telefone』(これは2016年だが)、珍しくカントリーでハマったヴァレリー・ジューンの『The Order of Time』、とにかくライブが楽しいブロックハンプトンの『Saturation』3作シリーズ、アーティスティックで洗練されたサンダーキャットの『Drunk』、更に成長を続けるシドちゃんの『Fin』、テラス・マーティン率いるポーリーシーズの地元愛溢れる『Sounds of Crenshaw, Vol. 1』、骨のあるラップで痺れさせるラプソディの『Laila’s Wisdom』などなど、大いに楽しませて頂いた2017年となった。(さようなら、ヤっさん……)
(P4:「荘 治虫のベスト・オブ・2017」へ ⇒)

塚田桂子
ヒップホップジャーナリスト、ガーデナー、カポエリスタ(修行中)、LA在住。
twitter:@kokosoultrane