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Best of 2017 / bmrライター&ゲストが選ぶ2017年のベスト10作品

昨年、the year 2017。それは、アメリカ史上初めてヒップホップ/R&Bがロックを抜き、「全米最強の人気ジャンル」となった年。フィジカルCDどころかアルバムのダウンロード購入すら減少する中、ストリーミングや楽曲単位セールスで勢いを見せつけるラッパーやシンガーが躍進した年でもあった。社会の変化とテクノロジーの進歩に伴って消費のありかたは変わっても、チェンジング・セイムな魅力を放ち続ける我らがジャンル。そんな2017年のシーンを振り返って、bmr編集部員、執筆陣、ゲストが、それぞれの観点からベスト10を選出した。

文責/bmr編集部

(⇒P1:「丸屋九兵衛のベスト・オブ・2017」より)

林 剛のベスト・オブ・2017

PJ Morton 『Gumbo』

K. Michelle 『The People I Used To Know』 Elijah Blake 『Audiology』 Avery Sunshine 『Twenty Sixty Four』

Bryson Tiller 『True To Self』 GoldLink 『At What Cost』 Stokley 『Introducing Stokley』

Ledisi 『Let Love Rule』 Ali Tennant 『Get Loved』 Moonchild 『Voyager』

1. PJ Morton 『Gumbo』
2. K. Michelle 『The People I Used To Know』
3. Elijah Blake 『Audiology』
4. Avery Sunshine 『Twenty Sixty Four』
5. Bryson Tiller 『True To Self』
6. GoldLink 『At What Cost』
7. Stokley 『Introducing Stokley』
8. Ledisi 『Let Love Rule』
9. Ali Tennant 『Get Loved』
10. Moonchild 『Voyager』

ざっくり言うと2017年のR&Bは、アンビエントやトラップといった音/作法が標準装備となり、90年代と80年代中~後期、00年代前半のリバイバルが同時に起こりながら現代的なクロスオーバーが進んでいるといった状況だった。とはいえ、サウンドがどう変化しようとR&Bの根本が歌、ヴォーカルであるということは何ひとつ変わっていない。

また、クレジット掲載が不完全なストリーミング(TIDALやSpotifyの取り組みを機に整備されていくことを願う)での聴取環境が主流となり、プロデューサーの没個性化も相まって裏方に対する関心が薄れつつあるようにも思えるが、R&Bがプロデューサーズ・ミュージックであるという事実も変わらない。そんな中、歌の上手・下手ではなく、シンガーの声色がバックトラックを含めた音の塊としてどれだけ滋味深く表現されているか、紙の『bmr』時代同様そんなことを基準に選んだ10枚。昨年12月に他メディアで発表したものとは時間の経過もあって若干異なるが、改めて迷いに迷ってしまったのは、それだけ良作が多かったのだと思いたい。

グラミー賞ノミネートもされたPJ・モートンのアルバムは、PJの地元ニューオーリンズで入手困難なフィジカル(CD)をゲットしたという自己満足もなくはないが、彼自身の中で募る地元愛とスティーヴィ・ワンダー愛が過去最高に炸裂し、ゴスペルやジャズの素養が垣間見える現行オーガニック・ソウルとしての最良の在り方を示してくれた一枚として堂々の1位に。エイヴリー・サンシャインも似たような理由での選出。ブルーノ・マーズ“24K Magic”と同じバイロン・チェンバースのトークボックスが聴けるあたりもポイント高い。

が、“R&Bは歌”と信じてやまない僕にとって、2017年最も心を揺さぶられた女性ヴォーカルはK・ミシェルだ。メアリー・J.ブライジ、キーシャ・コール、テイマー・ブラクストンそれぞれの新作も快調だったが、“Make This Song Cry”をはじめとするスロウ・バラッドの充実ぶりとエモーションの密度でK・ミシェルは群を抜く。近年好調なリル・ロニーの歌本位なプロデュースも完璧。

“歌ぢから”という点ではリーラ・ジェイムスの新作も楽曲が粒揃いだったし、セヴン・ストリーターなんかも最後まで迷ったが、オーセンティックな部分と現代らしいエッジや華やかさを備えたレディシの新作は、“Here”以降の後半をとにかく聴きまくったこともありランクイン。EPの段階でひと騒ぎしたH.E.R.をはじめ、SZA、ケレラ、ケラーニ、ルビー・フランシスといった新世代の歌姫たちも僕の耳を刺激してくれた。が、新世代では男性アーティストの方が歌の説得力が強く、アルバムとしても充実していた気がする。

ベスト10に選んだイライジャ・ブレイクとブライソン・ティラーは、90年代R&Bリバイバル的なことを、それぞれノスタルジーではなく現代的なアプローチでやってのけた快作。イライジャの新作は地味にシーンのトレンドとなっているマーヴィン・ゲイ“Sexual Healing”作法まで登場して痒い所に手が届く感じだったし、“トラップ・ソウル”を謳った前作の一段上をいくブライソンの新作は聴けば聴くほど味わいが増す。タンクの新作も似た雰囲気だったが、ブライソンの甘く粘り気のある声に僕はもの凄く色気を感じる。クリス・ブラウンの後を追う近年屈指の実力派R&Bシンガーでしょう。その点ではケヴィン・ロスも負けず劣らずだし、アンビエント的な文脈ではdvsnやダニエル・シーザーも健闘していた。

UKのデイリーと迷うも、やはりあの鮮やかな歌声には抗えないなと思って選んだのがストークリーの初ソロ。特に前半4曲の完成度。ミント・コンディションは今や現代アフリカン・アメリカンにとってのメイズ的存在だとも言えるが、ストークリーはフランキー・ビヴァリーのように“変わらないこと”を許され、愛され続ける人なのだと思う。約20年ぶりのアルバムに驚かされたアリは、まさかのジャヒーム化。ソウルフルな歌声とサウンドが聴き手の懐古趣味を刺激する、そんなアルバムもあっていい。ムーンチャイルドは人種も含めて拡張する(狭義としての)ネオ・ソウルの最新形で、とにかく蕩けるほど心地よかった。

ゴールドリンクは唯一のヒップホップ作品だが、ジャズミン・サリヴァンやマイアを引っ張り出してくる歌ゴコロとワシントンDC(DMV)・コネクションに心惹かれた。もしラヒーム・デヴォーンが20代のラッパーでフューチャリスティックにキメ込んだらこうなったのでは?という画が頭に浮かぶようなアルバム。

ついでに、現行ゴスペルではウォーリン・キャンベル全面制作となるウォールズ・グループのセカンド『The Other Side』を愛聴。直球なニュー・ジャック・スウィング(NJS)まで飛び出してくるのだけど、ブルーノ・マーズ“Finesse”がキッカケとなったのか、R&Bやゴスペルの作品にスパイスとして入っていたブギー/ディスコ調が最近はNJSに変わり始めているような印象もあって、同曲のカーディ・B客演リミックス以降、ムーヴメントとまではいかずとも、その動きがさらに加速していくような気がしている。

メジャー作品の日本盤リリースが激減したせいか、日本では“低迷している音楽”扱いされていたりもするR&Bだけど、USメインストリームのシーンからは絶えず刺激的な作品が出ているし、それがR&Bとして意識されようがされまいが多くの人に聴かれ続けていることに変わりはない。始まったばかりの2018年、僕の中ではSiRとジャスティン・スカイの新作が早くも今年のベスト10候補になっている。
(P3:「塚田桂子のベスト・オブ・2017」へ ⇒)

林 剛
R&B/ソウルを中心とした音楽ジャーナリスト。『bmr』での執筆は98年3月号からなので今年で20周年。昨年は共著で『新R&B教本』を上梓。今後もいろいろやる予定。
twitter:@hystys