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WONK x THE LOVE EXPERIMENT / 東京とNYの気鋭バンドによる貴重なコラボ・ライブ・レポート

カマシ・ワシントンも称賛した、日本が誇る「エクスペリメンタル・ソウル」バンドのWONK。ソウルやジャズ、ヒップホップから、エレクトロニカやクラシックなど様々な音楽要素が溶け合ったニューヨーク発の「フューチャー・ソウル」バンドのラヴ・エクスペリメント。顔を合わせることなく、データのやりとりを通して国をまたいだ“音楽実験”が為されたコラボレーション・アルバム『BINARY』を完成させた両者が、2018年1月、ついに同じステージに立った。東京とニューヨークの[Red Bull Music Studios]で制作されたコラボ新曲“Let It All In”も発表したこの気鋭バンド2組が、まさに音楽という言語で対話した、貴重な共演ライブの様子をお届けする。

text by 林 剛 / Photo by Tsuneo Koga

2010年に結成されるも本国ではほぼ無名だったザ・ラヴ・エクスペリメント(以下TLE)のライヴを初めて観たのは2015年10月、ニューヨークのチャイナタウンにある〈Fontana’s〉というクラブだった。

アルバム(当時は未完成)のプレヴュー・パーティと銘打ったショウで、マッド・サッタが前座を務めるというので足を運んでみたところ、TLEのネオ・ソウル然としたオーガニックなパフォーマンスに魅せられた。後日マンハッタンのカフェで、リーダーでドラマーのチャールズ・バーチェルに話を訊くと、メンバーはバークリーをはじめとするボストンの音楽大学の仲間で、それぞれがジャズやR&B、ポップスの世界で活躍する腕利きであることを教えられる。

特にニューオーリンズ出身のチャールズは、クリスチャン・スコットやジェイソン・モランとも仕事をしてきた才人で、好きなアーティストとして、ケンドリック・ラマー、フライング・ロータス、サンダーキャット、J・ディラ、それに黒田卓也やBIGYUKIらの名を挙げた(以前BIGYUKIに話を訊いたところ、チャールズとはニューオーリンズでソウルフード店に行くなどハングアウトする仲だという)。今の若手黒人ミュージシャンらしい答えが返ってきたわけだが、自分たちの音楽は一言で言うなら“フューチャー”だと確信に満ちた表情で答えてくれたのが印象深い。

そんなTLEの公式ファースト・アルバム『The Love Experiment』が日本先行でリリースされたのが2016年8月。そのアルバムを聴いて気に入ったのが、翌月に初フル・アルバム『Sphere』をリリースして注目を集めるWONKのメンバーたちだった。ともに90年前後生まれの同世代。“エクスペリメンタル”や“フューチャー”を謳い、それぞれニューヨークと東京でジャズやヒップホップ、ソウルをベースとしながらボーダーレスな音楽を目指す両者が結びつくのも時間の問題だったようで、2017年11月、企画から1年を経てリリースされたのが『BINARY』(タイトルは二成分、ふたつの要素を意味する)というコラボ・アルバムだったわけだ。

『BINARY』は、ビラルの来日公演にキーボード奏者として同行したTLEのデヴォン・ディクソン以外とは直接顔を合わせることなく、データのやりとりのみという、いかにも現代らしいプロセスで制作が行われた。それはまさしくエクスペリメンタル、実験的な試みでもあり、答えを決めて作るのではなく、お互いのセンスと技量を信じて、ライヴにおけるインプロヴィゼーションのように自由気ままに音楽を作っていくというもの。

そして、最終的にはライヴで共演を果たすというところまでを見据えたプロジェクトであり、そのラストを飾る現場となったのが今回、ブルーノート東京、ビルボードライブ大阪、名古屋ブルーノートをまわる、共演盤さながらのコラボ・ツアーだったわけだ。

WONK - Photo by Tsuneo Koga

筆者が観たのはブルーノート東京でのショウ。先攻は昨年秋に『Castor』と『Pollux』というダブル・アルバムを出したWONKから。

荒田洸のドラムスを合図に、『Castor』収録の“Midnight Cruise”を長塚健斗の青臭く伸びのあるハイトーン・ヴォイスとともにメロウに奏でていく。メンバーにギタリストがいないWONKだが、ここではTLEからアンドリュー・バーグラスが助っ人で参加。繊細なプレイでWONKの世界に溶け込んだ。

そのアンドリューに変わりTLEの女性サックス奏者ジェシー・リー(韓国系アメリカ人の彼女はTLEの曲作りにおいても重要な役割を担う)を迎えて披露したのが、『BINARY』からの“The World Looks So Brand New”。井上幹も黙々とベースを弾き、ハネるビートに揺られて長塚が歌い、途中ジェシーがアルト・サックスで饒舌にレスポンス。徐々にTLEとのコラボ感を強めていく。

WONK - Photo by Tsuneo Koga WONK - Photo by Tsuneo Koga WONK - Photo by Tsuneo Koga WONK x The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga

TLEから先のふたりにヴォーカルのキム・メイヨーと鍵盤のデヴォン・ディクソンが加わってプレイされたのが『BINARY』からの“Crazy Love”だ。江崎文武がエレピでメロウ&ドリーミィな音空間を紡ぐなか、長塚とキムのデュアル・ヴォーカルによって歌われる典型的なネオ・ソウル。エリカ・バドゥの声がよじれたようなキム・メイヨーのヴォーカルはかなりクセが強いが、そのミスティックなサウンドと相まって徐々に快感に変わっていく。

続いて、コラボ盤の前哨戦的にWONKの『Pollux』に収められたキムとの共演曲“Make It All Mine”が披露されたのも今回のステージならではだろう。J・ディラに心酔するWONKらしくファーサイド“Runnin’”にオマージュを捧げる形で作った曲で、このライヴでも曲を特徴づけているピアノ・リフ(演奏は江崎)が“Runnin’”の元ネタであるスタン・ゲッツ“Saudade Vem Correndo”のボッサ・ジャズ感を際立たせていた。

WONK x The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga WONK x The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga

ベースのパーカー・マクアリスターが加わってのTLEタイムは、彼らの出世曲と言っていい“School Girl”から。この曲は結成直後から演奏されてきたTLEの十八番で、その都度アレンジを変えているが、今回はデヴォンの変態シンセ・ソロもフィーチャーした粘着度の高いスロウ・ファンク的なグルーヴで聴かせた。

彼らのアルバムからはムーディな“Slow”も披露されたが、バンドの一体感という意味では、『BINARY』収録の“Summer Jawn”からデビュー作収録“Want Your Love”というフューチャー・ブギーな2曲を繋いだメドレーが圧巻で、両手を合わせ、体を揺らしながら歌うキムもスポーティで楽しげ。ジェシーのサックスもブロウしまくるダンサブルな快演を前にして、座って観てしまった自分をちょっと恨んだ。

The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga

この時点で当日ご覧になった方はお気づきになったかと思うが、実は今回、TLEのドラマーであるチャールズ・バーチェル(現在イタリアのローマに在住)は来日が急遽キャンセルとなった。TLEの魅力のひとつは、WONKの荒田いわく「綺麗だけど汚している感じ」というチャールズのしゃかりきなドラミングにあるわけだが、今回はTLEのレパートリーも含めて荒田が一手に引き受けるという大役をこなした。

そんな荒田がズラしながらバシバシ叩くフリースタイル的なドラム・ソロでスタートした二度目のWONKタイムでは、“WONK第5のメンバー”とも言われる日本人サックス奏者、安藤康平がステージに呼び込まれ、『Sphere』から変拍子が粋な“1914”を、長塚の力強いハイトーン・ヴォイス、安藤によるキレのいいサックスをフィーチャーしてプレイ(セカンド・ステージではTLEのアンドリューを迎えて『Castor』から“Gather Round”を披露)。

ライヴでこの曲などを聴くと、彼らがロバート・グラスパー・エクスペリメントと比較されていたことを思い出してしまう(もちろんその限りではないが)。むろん、ここで安藤を呼び込んだのは『BINARY』収録の妖しいスロウ・グルーヴ“Fragile Ego”で安藤のサックス・ソロをフィーチャーしていたからで、ここでもWONKは彼らの世界に誘い込む。

WONK - Photo by Tsuneo Koga WONK - Photo by Tsuneo Koga WONK - Photo by Tsuneo Koga WONK - Photo by Tsuneo Koga

こうしてそれぞれのアルバムとコラボ盤からの曲をパフォーマンスしてきたわけだが、この日ならではのスペシャルにしてハイライトとなったのが、両バンドによるジャム・セッションとなったハービー・ハンコック名曲“Butterfly”だろう。コの字型にセッティングされたピアノ/キーボードに腰掛けたWONK江崎とTLEのデヴォンが静謐かつ流れるような鍵盤の音色を放ち、TLEのパーカー・マクアリスターが巧みな運指でベース・ソロを奏でながら自由度の高いインプロのようなスタイルで長く演じたこの場面は、ジャズを共通言語とする両バンドが互いに何も語らずして結びついたような即興性と親密感があり、『BINARY』のコラボが必然であったことを伝えているようにも思えた。

そして終盤、『BINARY』からの“You”に続いて両者は、本公演に先駆けてウェブ上で楽曲の制作過程(データのやりとり)を公開する形で完成させた新曲“Let It All In”を披露。これぞBINARYな瞬間か。アンコールは、今回のコラボ盤で最もキャッチーな“Baby Can’t You See”。ロバータ・フラックでお馴染みの“Feel Like Making Love”とアル・クーパーの“Jolie”が合体したようなこの曲を長塚とキムが仲睦まじげに歌う姿にホッコリし、この頃には多くの人が、キムと長塚の歌をもっと聴いていたいと感じていたのではないだろうか。

WONK x The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga WONK x The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga WONK x The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga WONK x The Love Experiment - Photo by Tsuneo Koga

初対面同士のほとんど即席と言っていいライヴだったこともあり、未完成な部分もあったかもしれない。それでも新曲の“Let It All In”などはファースト・ステージでぎこちなかったものがセカンド・ステージではブラッシュアップされるなど、短時間で勘をつかんでいた。この後の大阪、名古屋公演ではより打ち解けた、充実したステージを見せてくれたのではないかと想像する。

互いを高め合い、どこにもない音を目指すTLEとWONK。プロジェクトはひとまず完遂となったが、両者のコラボはこれからも続いていくのだと期待したい。