bmr

bmr>FEATURE>ERIC ROBERSON special / 知る人ぞ知るカリスマ、エリック・ロバーソンを振り返る

FEATURE

ERIC ROBERSON special / 知る人ぞ知るカリスマ、エリック・ロバーソンを振り返る

いよいよ11月に、およそ10年ぶりにエリック・ロバーソンが来日する。その名前は至るところで見かけるとは言っても、その才能に見合った評価が本国においてもなされていない……というのが実情だろう。しかし、90年代から現在に至るまで、ミュージック・ソウルチャイルド、ヴィヴィアン・グリーン、ジル・スコット、DJジャジー・ジェフ、J・ディラ、ジェイムズ・ポイザー、マーシャ・アンブロージアス、レイラ・ハサウェイ、DJスピナ、フォーリン・エクスチェンジ、ロバート・グラスパー、KING……と数々のコラボレーションを積み重ねてきた「ミュージシャンズ・ミュージシャン」であり、インディR&B~ソウル界の王とも言える実力者だ。来日公演を前に、改めてエリック・ロバーソンというアーティストについて振り返ってみよう。

文/林 剛

アンダーレイテッド(underrated)とかベスト・ケプト・シークレット(best kept secret)などと評されるミュージシャンがいる。実力や功績のわりに世間一般での評価や知名度が高くない、知る人ぞ知るカリスマといったニュアンスが込められた言葉だ。US R&Bの世界において、そうした呼称が最もよく似合うのは誰か。

そう考えた時に即座に思い浮かぶのがエリック・ロバーソンである。彼と仲のいいゴードン・チェンバースやフランク・マッコムあたりにも同じことが言えそうだが、R&Bを軸にヒップホップ、ゴスペル、ジャズ、ハウスとも接点を持ちながら、メジャー、インディ問わず様々なプロジェクトに参加し、コンスタントにアルバムを出しながらも知名度が低いということではエリックがその最右翼ではないか。“知られていない”というより“知られていないことを知られている”と言った方がいいのかもしれない。本国でも、2012年にエリックが〈Essence Music Festival〉(現〈Essence Festival〉)に初出演した際、公式パンフレットの出演者紹介でEric Robertson(エリック・ロバー“ト”ソン)とミススペルで名前を記されていたほど。彼のようなシンガーが積極的に支持されるR&Bフェスでこれなのだから、世間における浸透度は推して知るべしである。

とりわけよく知られているのがフィラデルフィアを中心としたネオ・ソウル・シーンへの貢献

とはいえ、インディ・ソウルの文脈では高い評価を得ていて、とりわけネオ・ソウル系アーティストの間ではエリックとコラボすることをある種のステイタスとしている感さえある。時にErroという名義(エリックのErとロバーソンのRoを繋げた別称)でシンガーとして他者の作品に客演している彼自身もそうした状況を楽しんでいるかのようだ。他人に邪魔されず、妥協することなく自分の能力を発揮できるインディペンデントでの活動は実入りの面でも好都合であり、少なくとも彼が関わる音楽に関してはクオリティ的にメジャーの作品と比べて遜色がないと自負しているという。今から10年前、2007年に出したアルバム『…Left』のタイトルについてもエリックはこう話していた。

「僕自身や僕の音楽環境がメジャー(・レーベル)から離れ、今も成長を続けるインディ・ソウル・シーンのフロントに立つということなんだ」

“メジャーを離れた”と言うからにはメジャーと契約していた時期もあったということ。ワシントンDCの名門黒人校、ハワード大学の2年生だった時にエリックはWarner Bros. Recordsと契約、94年にシングル“The Moon”でデビューしていたのだ。後に未発表曲やレア音源などからなる2005年リリースの企画盤『The Appetizer』(次作『…Left』をメインディッシュと想定した“前菜盤”でもあった)に収録されたこの曲は、II Dエクストリームなどを手掛けていたブーガルー&カミールのプロデュースで、唱法も含めてR.ケリーからの影響が色濃く窺えるアーバンなミディアム・バラードだった。これは当時R&Bチャートで53位を記録するスマッシュ・ヒットとなったが、この時彼は芸能界には進まず学業に専念したというのだから堅実な考えの持ち主でもあるのだと思う。

とはいえ、大学を卒業した97年からは主にソングライター/ヴォーカル・アレンジャーとしてプロとしての音楽活動を再開し、ファージャに“So Long”を提供したのをはじめ112やジーナ・トンプソンなどに関わり、2000年以降もウィル・ダウニング、ケイス、アウト・オブ・エデン、ラトーヤ・ロンドン、ケニー・ラティモア&シャンテ・ムーアなどなど、今年リリースされたエイヴリー・サンシャインの最新作『Twenty Sixty Four』への関与に至るまで、この20年間、裏方としてもエリックの名前が途切れたことはほとんどない。


Eric Roberson – The Moon [1994]


112 – Funny Feelings (co-written by Eric Roberson) [1998]

そうしたなか、とりわけよく知られているのがフィラデルフィアを中心としたネオ・ソウル・シーンへの貢献だろう。

90年代後半からDJジャジー・ジェフ率いるア・タッチ・オブ・ジャズ(ATOJ)周辺で活動していたエリックは、映画『ワイルド・ワイルド・ウエスト』(99年)のインスパイア盤にて当時ATOJ構成員だったカーヴィン・ハギンズとキース・ペルツァーの制作となるニュートラル“Chocolate Form”でペンを交えたのをはじめ、ネオ・フィリー勢のデビュー作においても、ジル・スコット“Gettin’ In The Way”のバック・ヴォーカル、ミュージック・ソウルチャイルド“Mary Go Round”のソングライティング/ヴォーカル・アレンジ、ヴィヴィアン・グリーン“Emotional Rollercoaster”などのソングライティング/バック・ヴォーカルに関与。ミュージックやヴィヴィアンの曲をプロデュースしたのはオシュンラデであったが、歌い手にラップっぽい唱法(いわゆるラップ・シンギング)を促すネオ・ソウル的なループ感のある曲ながらメロディの強度が高いというエリック節は、この頃から彼の個性として確立されていく。


Musiq Soulchild – Mary Go Round (co-written by Eric Roberson) [2000]


Vivian Green – Emotional Rollercoaster (co-written by Eric Roberson) [2002]

シンガーとしても、テンダーな歌い口を持ち味としてラップ・シンギングとオーセンティックなソウル・ヴォーカルを併用。例えば、サントラ『Down To Earth』(2001年)にてジル・スコットとデュエットした“One Time”やDJジャジー・ジェフ『The Magnificent』(2002年)での“Rock Wit U”は前者の唱法で、ラリー・ゴールド『Larry Gold presents Don Cello and Friends』(2003年)での“Just A Dream”は後者の唱法にあたる。この使い分けはR.ケリー的とも言えるのだが、古きも新しきも知る76年生まれという世代も関係しているのか、ソングライティングも含めてヒップホップ以前のR&Bとヒップホップ以降のR&B、両方の作法をカバーできるのがエリックの強みであり、だからこそ新旧様々なアーティストが彼と組みたがるのだろう。

いずれにしても、業界内で彼の知名度や信頼度が格段にアップしたのはATOJ周辺で活動し始めてからで、当時ATOJにいた面々とは、例えばチャーリー・ウィルソンの2005年作『Charlie, Last Name Wilson』収録の“Thru It All”でアンドレ・ハリスとヴィダル・デイヴィスのチームと共作するなど、フィリーのムーヴメントが下火になって以降も現在まで関係が続いている。(⇒ P2「インディペンデントでの活動を誇りながらオーヴァーグラウンドとの接点も見出していく」に続く


Jill Scott & Eric Roberson – One Time [2001]


Eric Roberson – Just A Dream [2003]

 


Nao Yoshioka with special guest Eric Roberson
日時:2017年11月18日(土)開場15:00 / 開演16:00
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
価格:SS席6,000円 / S席5,000円 / A席4,000円 / B席3,000円
出演者:Nao Yoshioka, Eric Roberson 他 ※フロントアクト m.s.t.