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CALVIN HARRIS / カルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol.1』を読み解く

フランク・オーシャン、ミーゴズ、ヤング・サグ、フューチャー、トラヴィス・スコット、D.R.A.M.、リル・ヤティ、カリード、ケラーニ、ファレル、アリアナ・グランデ、ニッキー・ミナージュ、スヌープなどなど、豪華ゲスト19名を迎えた最新作『Funk Wav Bounces Vol. 1』で新境地を見せたカルヴィン・ハリス。ただの80s~ブギー・リバイバルには終わらないこの作品の魅力を、アーバン視点で読み解いてみよう。

文/荘 治虫

カルヴィン・ハリスと言えば、たいていのリスナーはまずEDMの3文字が頭に浮かぶんじゃないだろうか。彼がリアーナとタッグを組んだ“We Found Love”が2011年から2012年の冷たい冬をスタイリッシュに染める大ヒットとなったことは記憶に新しい。また、ユーロ系サウンドに傾倒していたクリス・ブラウンの“Yeah 3X”がカルヴィンの過去作“I’m Not Alone”に酷似しているとして、リリース後にソングライトのクレジットを獲得するというちょっとした騒動も話題となったし、ほかにもカルヴィンは“Let’s Go”にNe-Yo、“Dollar Signs”ではティナーシェなど、R&Bシンガーを完全無欠のユーロ・サウンドで彩ってきたから、意識的かどうかは別にしてR&Bリスナーであっても彼の音楽を何かしらの形で耳にしていることと思う。

デイヴィッド・ゲッタが放った2009年の『One Love』で本格的に幕を開けたR&BにおけるEDMの潮流は、行き詰まりつつあったR&Bシーンを打開するひとつの動きとして注目を集めたところがあった。フィーチャーされたR&Bシンガーたちの存在感溢れるヴォーカルと強力なダンス・サウンドとの相性は良好で、大陸を超えたグローバルな音楽として時代を映し出してきたことは言うまでもない。そして、カルヴィンは、メインストリーム的な視点から見ればゲッタの後に続いてきたように捉えられる存在だ。

そのカルヴィンが、これまで以上にアーバン・ミュージック勢を多々フィーチャーしたアルバムをリリースした。しかし、これは“We Found Love”などの焼き直しではない。それどころかこれまでのユーロ・ダンス系とは一線を画す音楽であって、従来のファンを戸惑わせることになるだろう問題作であり、そしてなにより、R&Bファンを少なからず喜ばせるだろう意外なほどファンキーなアルバムなのである。

by Courtesy of YouTube

80s初頭の匂いを醸す楽器へのこだわりが強烈

タイトル『Funk Wav Bounces Vol.1』には「バウンス」というワードが含まれているものの、前々作『18 Months』収録のケリスをフィーチャーした“Bounce”との音楽的な関連性はなく、“Bounce”というワードにこだわるなら、むしろザップの“Funky Bounce”あたりのファンクや、同じく彼らの初期代表作“More Bounce To The Ounce”を拝借したスヌープ・ドッグの“Snoop Bounce”などにつながる。ケラーニとリル・ヤティをフィーチャーした“Faking It”がマイアミ/アトランタのベース・ミュージック仕立てなので、そのビートがバウンシーだという見方も出来そうではあるが、『Funk Wav Bounces Vol.1』の中では例外的。やはり1980年前後のファンクとその系譜にある音楽を指していると考えるのが順当だろう。80年初頭を思わせるアルバムの音作りはタキシードなどの現代ブギーに通じるところがあって、スヌープで言えば、ファレル・ウィリアムズとチャド・ヒューゴが手掛けたディスコ・ファンク志向の快盤『Bush』に近い。本作収録の83~85年調ファンク“Holiday”には、そのスヌープがジョン・レジェンドらと共に客演している。


冒頭で触れたとおりEDMのイメージの強いカルヴィンではあるが、実は80sディスコ志向の作品をリリースするのはこれが初めてではない。そもそも、2007年にリリースされた彼のデビュー・アルバムはその名も『I Created Disco』というもので、まさしくディスコへの憧憬がくっきりと浮かび上がる作品だった。では今回は原点回帰なのかと言えば、これまたそう単純な話でもない。

『I Created Disco』は、シングル・ヒットした“Acceptable In The 80s”のデイヴィッド・ボウイ“Shake It”の引用が象徴するように、ディスコと言ってもソウル/ファンク系ディスコのダイレクトな参照ではなく、それらの影響下にあった非R&Bフィールドのディスコ/ダンス・ミュージック(その好例がナイル・ロジャースを迎えたボウイの『Let’s Dance』だ)の再現がキーとなる作品だった。一方、今回の『Funk Wav Bounces Vol.1』は例外となる曲はありつつも基本的には前述の通りブギーの流れを感じさせるものであり、同じディスコでも透けて見える景色はちょっと違う。彼のこれまでの仕事の中からあえて近いものを探すとすればメアリー・J・ブライジの『My Life II…The Journey Continues (Act 1)』のボーナストラックとして収められたスターゲイトとの共作“One Life”だろうか。

80s初頭の匂いを醸す楽器へのこだわりが強烈なアルバムだ。各曲のクレジットにはレコーディングに使用されたシンセやピアノ、ドラムマシン、ギターやベースなどが事細かに記載され、そのほとんどをカルヴィン自身がプレイしている。アルバム・リリース前に公開されていた“Slide”のメイキング動画では、生ピアノやエレキ・ギター、JUPITER-8、PROPHET-5、PPG WAVE 2.2などの楽器を実際に彼がひとつひとつ録音していくシーンが収められていた。現在ではPC上で動作する往年の名機をシミュレートするソフト・シンセがいくらでもあるわけだが、彼は敢えて不安定で扱いの面倒な本物のヴィンテージ・シンセを自らプレイしている。もっとも、録音する媒体はエディットが容易いPCのDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)であり、その点では録音全般をアナログ・テープレコーダーで行うタイプの懐古趣味ではない。

アルバムの幕開けとなる“Slide”がゆらめく生ピアノのイントロに導かれるように、あるいは“Prayers Up”の冒頭でギブソンSGの枯れたオーヴァードライヴがフェンダー・ローズに溶け込むように、哀愁漂う70年代的なスパイスが効いていることもこのアルバムを単なるブギーに終わらせていない要因だろう。そして、AOR的とも捉えられるそのスパイスがジャケット写真の気怠い夏の午後~サンセットを印象付けている。そんな本作の極めつけのサマー・ジャムが“Heatstroke”だ。ここでもまた、夏の日差しにヒリヒリと焼かれた肌を癒すかのごとく優しいエレピを配し、アリアナ・グランデの涼しげな美声とそのアリアナに負けぞ劣らず美しいファレルのファルセットが最高のヒーリングをもたらすチル・アウト系のミッド・グルーヴだ。

80sの再現に留まることなく、ブギーの再生産に陥ることもなく、果敢にアーバンのヴォーカル・トレンドを掬う

アリアナにファレルという“Heatstroke”の贅沢な顔合わせは、もうひとりの存在によってより一層アーバンの色彩を強める。その人こそ、ヤング・サグだ。この曲のヴァース、つまり平歌部分のリード・ヴォーカルはアリアナでもファレルでもなく、音程補正を使ったと思しきヤング・サグのラップ・シンギングなのだ。ご承知の通り、リル・ウェインがT・ペイン化してからというもの、多くのラッパーたちがオートチューンやそれに準じたエフェクト/エディットを施してラップと歌の狭間を埋める作業に余念がない。

アーバンにおける最も現代的なヴォーカル表現と言えるこうした歌は、ヤング・サグ以外にも、“Prayers Up”のトラヴィス・スコットや“Skrt On Me”のニッキ・ミナージュなど本作のあちこちで主役を任されている。スクールボーイ・Qのオールドスクール調のオン・ビートなラップからパーティネクストドアの補正ヴォーカル、そしてかなりシンガー寄りのシンガー/ラッパーであるD.R.A.M.の素朴な歌へとマイクをつなぐ“Cash Out”などは、80sの再現に留まることなく、ブギーの再生産に陥ることもなく、果敢にアーバンのヴォーカル・トレンドを掬っているように思う。

そう考えると、ブギーなイメージのないフランク・オーシャンの“Slide”への起用も実に的を射たものだと理解出来る。現行アーバンのラップ・シンギングのトレンドを規定する大きな流れは、上述のT・ペイン以降の南部に端を発するもののほかに、アンビエントR&Bへとつながるドレイクの落ち着き払った表現の流れがある(ちなみにパーティネクストドアはドレイクらのOVOサウンド所属)。何かしらのエフェクト処理がなされたと思われる“Slide”でのフランクのヴォーカルはその平坦な質感においてヴォコーダーにも遠くない、まさにドレイク流儀を行く抑揚の少ないもので、ポップな曲の仕立てのせいもあるのだろう、レイ・パーカーJr.を思わせるところも。その上、“Slide”にはミーゴスのクエヴォとオフセットをフィーチャーし、オートチューンをアグレッシヴに掛けたいかにも現代的な前者と、オールドスクール的フロウの後者といったように、ここでもその絶妙な配置に抜かりはない。ミーゴスのもうひとりのメンバーであるテイクオフは“Holiday”の中でやはりオールドスクール調にキメてみせている。

ところで、ヤングサグにクエヴォ、トラヴィス・スコット、パーティネクストドアといったゲスト陣は、ドレイクのプレイリスト・アルバム『More Life』とも共通するものだ。トラップ系を含む南部系とドレイク系という先ほど示したアーバンの2つの流れは以前から交流があったものの、近年はより接近してアーバン・シーンの大きなうねりとなっているように感じられる。そうした動向を、カルヴィンはしかと押さえているのだ。

EDMからの逸脱を果たした予想外のサウンドや、ファレルやケイティ・ペリー、ケラーニらを含む多彩なゲスト陣に注目が集まるであろうこのアルバム。ディスコ/ブギーとして愉しむことも出来るし、AOR的観点から切り込むことも出来るだろうが、そうした心地よいサウンドの上に、現在進行形のアーバンのヴォーカルを驚くほど的確に、そして華麗に乗せて見せたカルヴィンの手腕とセンスこそ、なにより衝撃なのだった。

(c)Conor McDonnell

カルヴィン・ハリスが〈Summer Sonic 2017〉でヘッドライナーとして出演!
出演日:
東京(ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ)2017年8月19日(土)
大阪(舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド))2017年8月20日(日)


『Funk Wav Bounces Vol.1』 国内盤CD
全10曲 2,000円+税 SICP-5428
初回仕様限定ミニ・ポスター封入

1. Slide (feat. Frank Ocean & Migos)

2. Cash Out (feat. ScHoolboy Q, PARTYNEXTDOOR & D.R.A.M)

3. Heatstroke (feat. Young Thug, Pharrell Williams & Ariana Grande)

4. Rollin (feat. Future & Khalid)

5. Prayers Up (feat. Travis Scott & A-Trak)

6. Holiday (feat. Snoop Dogg, John Legend & Takeoff)

7. Skrt On Me (feat. Nicki Minaj)

8. Feels (feat. Pharrell Williams, Katy Perry & Big Sean)

9. Faking It (feat. Kehlani & Lil Yachty)

10. Hard To Love (feat. Jessie Reyez)