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OMAR interview / オマーが語る新作、そしてリオン・ウェアとの最後の会話

英国ソウル界のレジェンド、オマーが今年1月に発表したおよそ3年半ぶりの新作『Love In Beats』には、ロバート・グラスパー、フロエトリーのナタリー“ザ・フロエシスト”ステュワートらから、アルバム発売の翌月に訃報が伝えられたリオン・ウェアまで、オマーだからこそ実現した豪華な顔ぶれが参加。コートニー・パインのスペシャル・ゲストという形で5月に来日した彼に、この新作について、そして、20年以上の付き合いだったリオン・ウェアについて、話を聞いた。

取材・文/末崎裕之 hiroyukisuezaki (bmr) 通訳/Kana Muramatsu 取材協力・写真提供/COTTON CLUB  撮影/米田泰久

リオンはレコーディングする直前に、胃の大半を切除した。それでも彼は歌ってくれたんだ

(→ P1より)

リオンに参加してもらうことは最初のアイディアには全くなくて、単純に“Rockin’ You Eternally”を使いたかっただけなんだ。弟に(“Rockin’ You Eternally”を)渡したら、ヒップホップ色の強いビートに(原曲の)ストリングスが映えたトラックになって、スペシャルなものになったなと思って。そして曲を書き始めていくと、この曲には2つの違うボーカルがあったほうがいいなと思い始めて、それだったらリオン本人にお願いしたいと思ったんだよ。

彼の亡くなる前の最後のレコーディングのひとつとなって光栄だと思っている。実はこの曲のビデオをバリで撮ってきて、先週完成したところなんだけど、ついさっきリオンの奥さんから、素晴らしいビデオをありがとうって御礼のメールをもらったところなんだ。数年前にドイツで行われた〈Baltic Soul Weekender〉というイベントでリオンと一緒にステージに立った時の映像が撮影してあって、その映像を引用しながらバリで新たに撮った映像と組み合わせたものなんだ。リオンのような素晴らしいソングライターの名を辱めたくないから、ただただ真面目に彼の素晴らしさを伝えるビデオを作ったよ


〈Baltic Soul Weekender〉でのリオン・ウェアとオマーの共演映像

オマーの3作目『For Pleasure』(1994年)収録の“Can’t Get Nowhere”でリオンとはコラボレーション済みのオマーは、それから「一緒にスタジオに入ったり、お互いの家に行ったり」20年以上の付き合いの古い友人となった。その信頼関係は、とても強い。スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)からの「大人になったら、オマーみたいになりたい」というコメントも有名だが、晩年のリオン・ウェアも賛辞を惜しまなかった。

リオン・ウェアは、2014年末に掲載されたUK Vibeのインタビューにおいて、リオンの“耳”にかなうUKアーティストは?との質問に、「UKのアーティストかどうかは関係なく、オマーは、彼の才能に見合うだけの称賛、認知、尊敬が得られていないアーティストだと思っている。彼は素晴らしいアーティストなんだ、本当に素晴らしい!」などと褒め称えていた。


『Gave My Heart』のEP発売時に、筆者が伝えたUK Vibeの記事をシェアしていた

オマーは、このインタビューの存在のことを知らなかったようで、このインタビューについて伝えると、じっくりとリオンの発言を読んだ後、深いため息を吐き、しばらく黙り込んだ後、涙を滲ませながら「ありがとう」と呟いた。そしてリオンとの最後の会話について、真摯に語ってくれた。

最後に話したのは2ヶ月……1ヶ月……いや1ヶ月半くらい前かな……彼が亡くなる前の。この曲のビデオについて話したんだ。この曲が壮大だから、大きなボートとかスポーツカーやベントリーに乗って、みたいな大胆なビデオにしたくて、当初はドバイで撮影しようと考えていたんだよ。

リオンは10年前からがんと闘っていて、一度はよくなったんだけど再発してしまって。実はこの曲をレコーディングする直前に、彼は大きな手術をして、胃の大半を切除してしまってたんだ。今でも信じられないけど、普通だったらとてもじゃないけど歌おうなんて思わないのに、そんな体調でそれでも彼は歌ってくれたんだ。

彼とはFacetimeでよく話していたんだ。それでビデオについて、最初はドバイに来てくれないか?ってお願いしたら、もちろん行くよと言ってくれた。だけど、次に話した時に、『申し訳ない。もう身体が無理だ』って。先が短いということを分かってたんだ。『もう別の世界から話してかけている気分だ』なんて言うんだよ。だから……、そういう状況で彼と話しているのはとても辛かったよ

このインタビューが行われたのは5月23日。取材の朝には、あのマンチェスター・アリーナで起こった爆破事件が報道されていた。近郊にある音楽学校に通っていたこともあるオマーにとっては、辛い映像だっただろう。涙を拭いながら、「なんだか悪いね。今日は爆破事件もあったから……観た? マンチェスターの。近くの学校に通ってたんだ。今日はいろんな想いが込みあげて……」と心情を吐露した後、バツが悪そうに「アルコールを飲めば大丈夫(笑)」とジョークを飛ばした。

Courtney Pine & Omar (2017) 写真提供/COTTON CLUB  撮影/米田泰久

リオン・ウェアが参加した“Gave My Heart”は、来日公演後の6月2日にEPとしてリリース。オリジナルやアルバム未収録曲に加え、DJジャジー・ジェフ(DJ Jazzy Jeff)や、クール・ミリオン(Cool Million)のロブ・ハート(Rob Hardt)、スクラッチ・プロフェッサーらによるリミックスも収録される。このジャジー・ジェフ・リミックスは、本人の与り知らぬところで生まれたのだとか。

ジャジー・ジェフ! 彼とも昔から知り合いだし、お互いにファンではあるけど、たぶん今回が(コラボレーションは)初めてなんだよね。ロバート・グラスパーもだけど。

ムース・T(Mousse T.)ってドイツのPeppermint JamってレーベルのDJが、Twitterでジャジー・ジェフにリミックスを頼んだらしくて、いつの間にか自分の知らないうちにこのリミックスが出来てたんだ。しかもその時、自分はスイスのジャズ・フェスティバルに出演していて、ライブが終わった後に突然メールで送られてきたんだ。素晴らしいなと思ったからそのまま使わせてもらったけど、エリック・ラウ(Eric Lau)にカイディ・テイタム(Kaidi Tatham)ってそれぞれ違う国の4人が連絡し合って、自分の知らぬうちにリミックスが出来てたんだから驚きだよね

おそらくこのDJジャジー・ジェフ・リミックスは、ジャジー・ジェフ指揮によるコラボレーション・プロジェクト=ザ・プレイリストが今年2月に発表した『Chasing Goosebumps』のセッションの派生で生まれたものだろうと思われる。絶好のタイミングで生まれたわけだ。(⇒ P3 「ロバート・グラスパーはマスター・ミュージシャンだ」へ)