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PRINCE special / ブラック・ミュージックの流れの中のプリンスを見つめ直す

世界を揺るがした訃報から1年弱。それぞれのプリンス観を胸に、2人のハードコア殿下ファンが語り合う。彼らの心の中で今も生き続けるプリンス。ブラック・ミュージック・ヒストリーの中で、プリンスが果たした役割とは?

対談/長谷川町蔵 × 丸屋九兵衛 文責/bmr編集部

■Housquake in Los Angeles

(→ P1より)
丸屋「先ほど“何も変わらない”と言いましたが、そんなわたくしもちょっとだけ涙目になりかかった瞬間はありましたね。昨年6月の〈BET Awards〉です」

町蔵「あれは最高でしたよね。5月の〈Billboard Music Awards〉でも追悼コーナーはあったんですけど、出てきたのがマドンナ。しかも殿下との共演曲”Love Song”ではなくて、”Nothing Compares 2 You”と”Purple Rain”というヒネリも何ともない選曲で」

丸屋「しかも、衣装が84年のプリンス風なのが非常に痛かった」

町蔵「その点、BETはスゴかった。トップバッターのエリカ・バドゥが歌った曲が『Sign ‘O’ The Times』のシングルカットもされていない”The Ballad Of Dorothy Parker”だった時点で勝負あったって感じ。しかも次に出てきたのがメジャー契約をしていないビラルで、歌うのが”The Beautiful Ones”。いかに殿下を愛しているか、殿下に影響されたクオリティの高い音楽をやっているかを基準に人選しているかが分かって感動しました」

丸屋「そしてマックスウェル! 彼が歌う“Nothing Compares 2 U”の替え歌バージョンですよ、わたしを涙目にしたのは」

町蔵「あなたがいなくなってから15日~の部分を命日と合わせて66日にしていましたよね」

丸屋「そう、彼は彼でプリンスの後継者だと思うんですよ。特に、“自分大好き感”とか、文字表記への異常なこだわりとかの面で」

町蔵「そして、ジャネル・モネイもコスプレ込みで最高だった」

丸屋「わたくし、あれを見てジャネルのガールフレンドになりたいと思いました」

町蔵「ボーイフレンドではなく、ガールフレンド! まさに”If I Was Your Girlfriend” ですね。それはともかく、噂されていたディアンジェロは出てきませんでしたね」

丸屋「当初は、シーラ・Eが仕切って、みんなでメドレーをやろう、みたいな計画だったらしいですね。シーラとしてはスティーヴィ・ワンダーに“U Got The Look”を歌って欲しかった、とか。でも、途中から“それぞれが好きな曲を歌おう”となり、やがてディアンジェロの名前が脱落した、と。そのあたりの事情は、シーラもよくわからんらしいです

町蔵「あとアンドレ3000も絶対登場すべき人なのに出演しなかった」

丸屋「あ、誰か足りないと思ったら、アンドレか!」

町蔵「プリンスの領域に本気で迫ろうとしているミュージシャンって客観的に言えばあの2人だと思うんですよ。ディアンジェロなんてザ・タイムのジェシー・ジョンソンをバンドに迎え入れてギターを教わったりしているし」

丸屋「ディアンジェロとジェシー・ジョンソンの合体劇には、JBズ出身のブーツィ・コリンズがPファンクに加わった時に近いインパクトがありますよね」

町蔵「でもディアンジェロとアンドレってものすごく寡作じゃないですか。プリンスの高みに近づくほど人は寡作になっていく。そういう意味では多作家だった殿下がいかにトンデモないかが分かるわけですが」

丸屋「ディアンジェロとアンドレは、そもそも活動自体がコンスタントではないですからね。〈BET Awards〉に関しても、連絡が取れないまま終わったんじゃないか、という気も……」

■ Time Will Tell

町蔵「〈BET Awards〉のトリはシーラ・Eでしたね。プリンスの取り巻きがどんどん入れ替わっていく中で、最後まで友好関係を保ち続けたのは彼女くらいだから納得です。彼女が殿下の公式語り部みたいになっていくのかもしれませんね。今年のグラミー賞の方はモリス・デイ&ザ・タイムがトリでしたね」

丸屋「ああ、オリジナル・セヴン……。プリンスに対して複雑な感情を抱く子分の筆頭かもしれません」

町蔵「普通、悪い親分って、子分の才能を搾取するものじゃないですか。例えば作曲クレジットを自分のものにしてしまうとか」

丸屋「ジョージ・クリントンもそういうことが言われましたしね。あと、ダズ・ディリンジャーに言わせると、“プロデューサーとしてクレジットされていても、ドクター・ドレーはイコライザーをいじっているだけ”らしいですから」

町蔵「でもプリンスの場合、子分の才能を搾取じゃなくてスポイルする。そこがユニークですよね。実は全楽器を演奏しているのは殿下とか、曲を書いていたのは殿下とかそういうパターンがやたらと多いという」

丸屋「しかも、アレクサンダー・ネヴァーマインドとかジョーイ・ココとか、明らかに怪しい変名で」

町蔵「ザ・タイムのときはジェイミー・スターでしたっけ。しかもバレバレの芝居を子分に強要する。ザ・タイムが再結成盤『Pandemonium』をリリースしたとき、インタビューでメンバーが“ジェイミーとまた一緒にやれて嬉しいぜ”とか言わされていて、まだその猿芝居をやらせるんだと驚いた記憶があります」

丸屋「それにしても異常ですよ。普通は、“実力ないけどツラがいいヤツ”を表に立てて、“見た目が悪い実力派”を縁の下の力持ちにしますよね、ミリ・ヴァニリとリアル・ミリ・ヴァニリみたいに。ところがザ・タイムの場合は……」

町蔵「歌もルックスもイケてるアレクサンダー・オニールをフロントマンから下ろして、あえてのモリス・デイですからね!」

丸屋「しかも、そのモリス・デイ以外は当初、音盤上に存在せず、後の演奏はすべて殿下、という……。ザ・タイムの面々は、フラストレーションを超えたワケわからん違和感を抱えていたでしょうねえ」

町蔵「でもオニールがヴォーカルだったら、あまりに正統派すぎて売れなかったかもしれない。ザ・タイムもはあのチンピラっぽさがクールだったし、ズートスーツとかビジュアル面もキャッチーだった。でもあれって全部プリンスのアイディアなんですよね」

■ Black Prince

丸屋「どのアルバムから入ったかによって、プリンス観が違うと思うんですよ。例えば、『Purple Rain』から入ったわたしと、『Parade』以降にプリンスを知った人とでは、プリンスのファンクに対する考え方が食い違うんじゃないかと」

町蔵「それは具体的に言うと?」

丸屋「ちょいと乱暴な言い方ですが、『Parade』以降って、ファンク色がより鮮明になってきた気がするんです」

町蔵「ああ、確かにそれまではファンクをやるときは敢えて英国ニューウェイヴのフィルターを一旦通すみたいな屈折したことをやっていたかも」

丸屋「そういう屈折系ではなく、わりと素直なファンク、“プリンスらしくないファンク”ができちゃった時のアウトプットとしてザ・タイムがあったわけですよね」

町蔵「でもそれが崩壊しちゃってザ・ファミリーに模様替えさせたら、レヴォリューションとあまり変わらない音楽性になってしまった。で、そのザ・ファミリー残党のエリック・リーズやミコ・ウィーヴァーをレヴォリューションに加えたのがちょうど『Parade』の頃。たしかにあれ以降、王道ファンクをやるようになった感じがありますね」

丸屋「そもそも『Parade』はホーンが入ってることだけで驚きでしたもの。プリンスの曲なのに!」

町蔵「そのあと、90年代以降のプリンスは、自分が黒人音楽の伝統を継承していくってことを意識するようになりましたよね」

丸屋「80年代末、ジョージ・クリントンとメイヴィス・ステイプルズのペイズリー・パーク入りは象徴的な出来事でした!」

町蔵「昔、プリンスは黒人っぽくないからダメだみたいな乱暴な意見があったじゃないですか。でもマイケル・ジャクソンもそうだったけど、アフリカ系の支持は一貫して高かったですよね」

丸屋「だから、ブラック・ミュージックの文脈から切り離してプリンスが語られることに違和感を覚えるんですよね、わたしは。いろいろな意味でアフリカン・アメリカンらしいやん!と思うし」

町蔵「バスケも上手かったそうだし。プリンスはあくまでも同胞の圧倒的な支持を基盤としてクロスオーバーに挑んだことがあらためて分かった気がします」

丸屋「〈BET Awards〉でも、客席のサミュエル・L・ジャクソンがノリノリだったのが印象的でした」

町蔵「プリンスって黒人コメディアンからの支持がものすごく高いんですよね。エディ・マーフィ、クリス・ロック、デイヴ・シャペル、ジェイミー・フォックスといった錚々たるメンツが殿下への愛を表明している。これはプリンスの言語感覚がリスペクトされているってことなんでしょうか?」

丸屋「かつて我々はプリンスのセクシュアル路線の歌詞を見て仰天したわけですが、彼ら黒人たちにとっては、“ブルースから綿々と続く伝統の中で出てきた、ニュー・バージョンの艶笑譚”だったのかも」

町蔵「妄想力や発想の飛躍が凄すぎて、笑っちゃうくらいの詞を書くアフリカ系アーティストというと、昔だったらジョージ・クリントン、今ならR.ケリーが筆頭に挙げられると思うんですけど、そうしたファンキー詩人の流れの中にプリンスもいるってことをわれわれは認識すべきなのかもしれませんね」