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FEATURE

滴草由実 interview / 「ルージュという色は、ブルーの反対」

ここ数年、それぞれの時代の先端を行くサウンドに挑んできた滴草由実。2015年夏に出た前作『BLUE』から約1年半を経て、通算7作目となるオリジナル・スタジオ・アルバム『ROUGE』が完成させた彼女に、話を聞いた。

取材・文/金子穂積

『BLUE』をリリースする頃から、考えていたんです。次に出す作品は真逆で行こうと

滴草由実、通算7作目となるオリジナル・スタジオ・アルバム『ROUGE』は、前作『BLUE』から1年半ちょっとのインターバルで届けられた。ここ数年は、プロデューサー兼トラックメイカーのT-4氏とのタッグで先鋭的なサウンドに果敢にチャレンジし、また前作では「Everytime」で今や時の人となったスターロー(starRo)といち早くコラボレーションしたりと、その感度の高い動きが注目されている。さて、その新作『ROUGE』はここ数年の彼女の作品の流れを汲むサウンドとは分かるものの、前作に比べてガラリと雰囲気が違うのに驚かされた。

実は『BLUE』をリリースする頃から、次の作品に関して考えていたんです。次に出す作品は『BLUE』とは真逆の方向性で行こうと。ルージュという色もブルーとは反対のものとして、その時にすでに思いついていたので、『BLUE』をリリースした後すぐに制作に取り掛かっていました

なるほど、あえて前作とは逆方向のイメージで制作されたと聞かされて納得がいった。が、色ひとつだけをテーマにアルバムを作ろうとするアプローチは、普通のアーティストにはなかなか難しいかもしれない。しかも『BLUE』、『ROUGE』と2作連続で、である。作詞作曲からコーラスワークまでを自身で行うのみならず、絵を描き、アートワークにも自らのイメージを投影させようとする彼女だからこそ、そういったアプローチが取れるのであろう。

今回、最初の曲が出来る前に1枚の絵がまず出来上がったんです。それが土台となって曲の歌詞で使われる言葉も色々と出てきて。その絵は特別版の方のジャケットにした絵なんですが、なんとなく“情熱”というテーマが浮かんで油絵具で描いたもの。新作の全ての曲を作る前に、まずこの絵が出来たんです。人間の中に渦巻く心情、ニュースや新聞を見て感じる渦巻く社会だったり、その中で活動する人の気持ちだったりがキーワードとなって浮かんできて。

また、制作している期間は、ひたすら集中して作ってると、たまにテーマから外れてしまっていることに気がつかないで進んでしまったりすることがあるんですが、この絵を部屋に飾っていたので、毎日、これを見ることによって軌道修正されたりもしました。アルバムを作るに当たって、まずテーマとなる絵が出来たというパターンは初めてだったので新鮮でしたね。ただ、最初から『このテーマで描こう』と思ったのではなくて無意識で描いたらこうなったんで、それで『今の気持ちはこういうことなんだな』と自分で解釈をして。

また、ルージュという赤からは、胸の奥でくすぶっている炎のイメージも浮かんだので、それも伝えたいテーマとなりました

そのジャケットとなった絵が出来上がった後、初めて出来た曲が「What U Want」だという。スロウながらもビートの効いたトラックも耳も引くが、筆者が新鮮だなっと思ったのは、ラフというかちょっと悪ぶったような歌い方であった。

自分でも『BLUE』の完成度が高いと感じたので、次の作品は、そこからさらにハードルを上げてクオリティの高いものにしてリリースしたいと思っていたんです。それが出来上がるまでは絶対出せないなと。自然と自分自身にプレッシャーをかけてまたハードルを上げて制作に入り始めたのですが、そういった状況で一番最初に出来たのが“What U Want”です。トラックをもらい、どういう歌詞にしようかなという時に、世の中に対して問いかけるような感じに歌いたいなとまず思いましたね。サウンドの雰囲気に今までなかった大人っぽさがあったので、歌詞を書いて言葉を選ぶ時もちょっとその辺を意識しました。またメロディよりもポエトリー的な感じにしたかったので、この曲に関しては歌うというよりも語るように作りましたね

redとせずにrougeとしたのも、ディープな大人のニュアンスを出したいから

アルバムのオープニングを飾る「One In A Million」は、前作にも参加していた、キーシャ・コールのヒット曲“Heaven Sent”のプロデューサーとして知られるJ・ヴァイブ(Jason “J-Vibe” Farmer)による作品だ。この曲のサウンドが、実に重い。

「(アルバムのオープニングも)『BLUE』とは全然違う入り方をしたかったというのがまずあって。それで『重ければ重いほどいいかな?』と思ったんです。『BLUE』はエネルギッシュでアップが多く、勢いを感じる作品だと思うんですけれども、新作の『ROUGE』の方は重みを伴った、鼓動のような、内面からふつふつと湧き出る想いのイメージがあって。普通の赤、redとせずにrougeとしたのも、ディープな大人のニュアンスを出したいというのがありましたね。それで、そのイメージにあったこの重い“One In A Million”をあえて最初に持ってきたという感じです。

『BLUE』に提供してくれた“Love Me”の印象がとても良かったので、J・ヴァイブにまた作ってもらいたいなと。でもやっぱり『BLUE』とは違う方向性で行きたいなというのがあって、ドラムロールを使いつつシャーデーの“Soldier Of Love”のような雰囲気の曲を作ってほしいというオーダーだけをして、あとはおまかせで作ってもらいました。信用しているので絶対良いものが来るだろうとは思っていたのですが、実際にどういうものが送られてくるかはドキドキで(笑)。で、音が送られてきて、すぐスタジオで聴いたのですが、『オォこうきたか!』と思うと同時に、『この音で私はどういう風に歌おうか?』というハードルが瞬時に頭に浮かびまして(笑)

今回のインタヴューの最中、何度となく聞いた言葉が「ハードル」だ。自身であえてハードルを上げて、そこに挑むというスタイルが定着しているようである。

物を作る上でいつも胸に抱いていることが“クオリティの高いもの”なので、曲を作っていて、それがある程度のクオリティになっても、自然と『これでいいのかな?』と思い、マイクとパソコンを見ながら何回も聴き直したりしますね。で、一瞬『良いかな?』と思っても、あえて違うメロディーライン作ったりして、それを聴き比べて、落ち着く方を取る、といったことを常にしていますね。自分でも何でこんなにハードルを上げているんだろうと思うこともあったりするんですけどね(笑)。でもそれがあるからこそ到達出来ることもあり、また今のクオリティにもなっているので、やっぱり必要なことなんだろうなと思ってます

基本、アルバムのほとんどの曲はT-4氏と滴草本人の二人で作り上げているが、今回、J・ヴァイブと並び、もう一曲、外部の力を借りた曲がある。アムステルダムを拠点に活動し、ジャスティン・ビーバー“All That Matters”のリミックス・ワークスで知られるジェフタズ(Jeftuz)がトラックを提供し、Yoko Blaqstoneが作詞作曲を担当した「Touch me」だ。

ジェフタズは以前から一緒にやりたいなと思っていて、コンタクトを取って何曲かトラックを送ってもらったんです。その中で気に入ったのがこの“Touch me”のトラックで。いつもトラックをもらうと、漠然とメロディーや世界観を考えながら聴くんですけれども、この“Touch me”の時は、ふとYokoさんが思い浮かんで。もともと今回、Yokoさんに曲をお願いしたいなというのがあったので、『今のYokoさんがこのトラックで曲を作ったらどうなるだろう?』と化学変化みたいなものを期待してお願いしました。本当に久しぶりだったんですけれども、以前にお願いした時は、トラックから作詞作曲まで全てをお願いするのがパターンだったので、今回みたいなトラックありきでお願いするのは初めてだったので、それも新鮮でしたね

アルバムのテーマに合致する、パズルの最後のピースのような曲はあったのだろうか?

2曲目の“渇き”が出来た時に手応えを感じましたね。アルバム全体を代表するというか、キー・トラックが出来るまでが苦しかったりするんですけれども、それがこの曲で。制作過程の後半に出来た曲ですが、全体的に曲が増えていく一方で、『材料は揃っているんだけれども、あともうひと押しなんだよなぁ』といったモヤモヤしていた時にできた曲です。言葉選びも、書いては消してを繰り返した曲で、時間がかかった曲なのですが、完成した時には『これだ』と手応えを感じましたね。一緒に作っていたディレクター(T-4氏)も同じように感じたのではないかなと

前作のインタヴュー時にも、「苦労はしたけれどもここまで到達しました。どうですか?」といった自信に満ち溢れた話っぷりを頼もしく感じたが、今回も同様な気持ちを抱いた。実に頼もしい。しかも、前作よりも確実に進化しているのも、アルバムを聴けば一目瞭然だ。今後の活躍にさらに期待が高まる。

今回も何十曲も制作し、その中から選りすぐったらしいが、遡ってラフなトラックなどを含めると、世に出していない曲のストックは100曲ぐらいはあるらしい。前作『BLUE』リリース時には、今回の新作『ROUGE』の構想がすでにあったということだが、さらなる次の作品のアイデアを抱いていても不思議ではないなと思って尋ねると、「ご想像にお任せします(笑)」という答えが返ってきた。次のアルバムの色は何色だろうか?