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JOHN LEGEND / 原点回帰の制作プロセスを経て生まれた意欲作『ダークネス・アンド・ライト』

グラミー10冠に輝く“伝説”が、3年ぶり新作を引っさげて帰ってきた。“All Of Me”で自身初の全米チャート1位を獲得、『グローリー/明日への行進』主題歌“Glory”でオスカーに輝くといった成功を収め、満を持して発表された『Darkness and Light』。チャンス・ザ・ラッパー、ミゲル、ピノ・パラディーノ、クリス・デイヴ、カマシ・ワシントンらも参加したこの最新作はどのようなアルバムになったのか? ジョンの発言を参考にしながらひも解いていこう。

文/末崎裕之 hiroyukisuezaki (bmr)

この12月、デビュー・アルバム『Get Lifted』の発表から12年を迎えるジョン・レジェンド。 まもなく38歳となる彼は、この数年でこれまでにない成功を収めた。

2013年夏に発表された前作『Love In The Future』からのサード・シングル“All Of Me”が、2014年5月、10週に渡って全米シングル・チャートのトップを独占していたファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)の“Happy”を2位に引きずり下ろしてトップの座に。ジョンの10年以上のキャリアにおいて、初の全米1位獲得となった。3週に渡って1位を制した同曲はまた、全米シングル・セールスで2014年の年間2位となる大ヒットに。名実ともに、“Ordinary People”に代わる新たな代表曲となった。

さらに、コモン(Common)と組んで発表された“Glory”(映画『グローリー/明日への行進』主題歌)で昨年、10度目のグラミーを授賞、さらにオスカーにも輝く。ちょうど「Black Lives Matter」のムーブメントが巻き起こり、改めて米社会における差別問題などが俎上に載っていたタイミングでもあり、映画のメッセージと共に、グラミー賞やアカデミー賞でのパフォーマンスや、「ニーナ・シモーンはかつてこう言っていた。いま我々が生きている時代を反映させることは、アーティストの責務であると」、「公正を求める闘争は今まさに起こっている」と語ったジョンのスピーチは大きな反響を呼んだ。

またこれまで、“All Of Me”を除いてはトップ20ヒットもなかったジョンだが、2015年はジョンがゲスト参加したバージョンが発表されたこともあってサム・スミス(Sam Smith)の“Lay Me Down”が全米チャート最高8位のヒットとなり、続けてデュエット相手を務めたメーガン・トレイナー(Meghan Trainer)“Like I’m Gonna Miss You”も同じく最高8位と、ポップ・フィールドにも手を伸ばして活躍。まさにノリにノっているところで満を持して発表されたのが、最新作『Darkness and Light』だ。

2008年の大統領選の前にはザ・ルーツ(The Roots)と『Wake Up!』なるコンシャスなコラボ作を発表していたジョンだけに、“Glory”絡みでの社会へのメッセージ、米大統領選にまつわる発言(ヒラリー支持だった)や、黒人奴隷たちが奴隷制のある南部から地下逃亡幇助網を通じて脱出・亡命した史実を基にしたTVドラマ・シリーズ『Underground』を製作するといったトピックもあったことから、今回のアルバムもそういった内容になるかと思われたが、しかし実際はそうではなかった。むしろ、ほとんどは<君と僕>、そしてその間にある愛について歌われた、とてもパーソナルで、内省的な内容だ。

『Darkness and Light』というタイトルについてジョンは、iHeartRadioのインタビューの中で、今年4月に誕生した念願の娘の名前が、夜の闇に輝く月を意味するルナであることを理由のひとつに挙げており、さまざまな愛のかたちを描いた“Love Me Now”のミュージックビデオでは妻、娘とのファミリーショットも披露している。「今起こっているこの全てから、喜びと光を見出そうとする」ともタイトルの意図について語っているが、暗い時代を生きる中で娘という希望が誕生したことが、ジョンにとって象徴的な出来事だったということだろう。時代の空気というのを意識的にも無意識的にも反映させつつ、パーソナルな作品として昇華させたという意味ではソランジュの『A Seat At The Table』とも同調すると言えるかもしれない。

音楽面では、明確な変化がある。ジョンは今回、アラバマ・シェイクス(Alabama Shakes)のグラミー受賞作『Sound & Color』などのプロデュースで知られる若き才能、ブレイク・ミルズ(Blake Mills)を共同エグゼクティヴ・プロデューサーに迎えた。「ブレイクのことをロック畑のヤツとかオルタナティブ系だって思っている人がいるのが自分には面白い」というジョンは、ブレイク・ミルズを「素晴らしいミュージシャンであり、素晴らしい作詞家であり、素晴らしい思索家」と讃え、実際に全曲のプロデュース、そしてほぼ全曲の作詞作曲(共同)に抜擢している。そしてブレイクの手腕は、ジョン曰く「ソウル・アルバムだと思った」アラバマ・シェイクス『Sound & Color』にも感じられた、ゴスペル~サザン・ソウルやブルースといったルーツ・ミュージックを当代風に聞かせるところで特に発揮されたのではないだろうか。アルバムのオープニングを飾る“I Know Better”は、デビュー作『Get Lifted』でも“Let’s Get Lifted”や“Number One”といった曲でゴスペルのルーツを強く感じさせたジョンをうまく生かした曲だ。

また本作『Darkness and Light』は、デビュー初期を感じさせる曲も多い。チャンス・ザ・ラッパー(Chance the Rapper)をゲストに迎えた“Penthouse Floor”は本作のハイライトのひとつだが、サビでのキャッチーなメロディ、女性コーラス隊との掛け合いは、“Number One”、“Slow Dance”などの雰囲気を思い出す。この親しみやすいメロディは、アデル(Adele)の“Hello”を手がけたことでも知られるグレッグ・カースティン(Greg Kurstin)の力もあるだろうか。

本作では他に、ピットブル(Pitbull)の2014年ヒット“Fireball”で共作およびゲスト参加していたシンガー・ソングライターで、ワン・ダイレクション(One Direction)らの楽曲も手がけるジョン・ライアン(John Ryan)がリード・シングルの“Love Me Now”に関わっているのを始め、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)の“Sorry”に関わったジュリア・マイケルズ(Julia Michaels)&ジャスティン・トランター(Justin Tranter)や、アデル“Chasing Pavements”などを手がけたエグ・ホワイト(Francis “Eg” White)といったポップ畑で活躍する作家も複数参加しているのが印象的だ。

加えて強い印象を残すのは、生演奏を主体とした、荒々しさや生々しさも帯びたサウンドだろう。中でも目を惹くのはやはり、ピノ・パラディーノ(Pino Palladino)とクリス・デイヴ(Chris “Daddy” Dave)のふたり。“Penthouse Floor”や、アラバマ・シェイクスのブリタニー・ハワード(Brittany Howard)との官能的なデュエットを聞かせるサザン・ロック調の表題曲、ミゲル(Miguel)と共作・共演するミッド・スロウ“Overload”、チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)のメイン・コラボレーターであるラドウィグ・ゴランソン(Ludwig Göransson)も関わる“Surefire”など、計7曲で演奏している。

SNS時代における振る舞いについて警告と助言を与える“Overload”、そして愛娘に捧げた“Right By You (For Luna)”では、カマシ・ワシントン(Kamasi Washington)がスピリチュアルなサックスで彩る。アラバマ・シェイクス『Sound & Color』でも活躍したロブ・ムース(Rob Moose)によるストリングス・アレンジも含め、ライブ・サウンドを前面に押し出した形だ。[837 NYC]で行われたアルバム試聴会でのインタビューでは、「新しいテクノロジーはなし」、「アルバムの制作過程はむしろ原点回帰で、オーガニックで、自分が子どもの頃から聞いてきたソウル・ミュージックのような仕上がり」、「今回は、ひとりのプロデューサーと手を組んで制作したということと、バックミュージシャンが一貫しているというふたつの点が、前作までと大きく違う点と言える。ドラムは、ループやドラムマシーンではなく生のドラムだから、臨場感が出ている」と語っているが、主にディアンジェロ(D’Angelo)の『Black Messiah』やケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)『To Pimp A Butterfly』以降のバンド・サウンド回帰の動きを感じ取ったのではないか。


原点回帰、そして時にヒリヒリするような荒々しさ、生々しさをともなった作品という意味では、アリシア・キーズ(Alicia Keys)の最新作『Here』にも通ずるところがある。そういえばジョンは、「『Darkness and Light』は、自分の人生のこの瞬間において、まさにこれというタイトルだと思った」と話しているが、アリシアもまた、『Here』というタイトルについて、「今その瞬間に私がいる場所のこと。“今”に焦点を合わせて、自分自身が誰かということについて明確な自覚があること。その瞬間に自分が感じていること、自分が経験していること、そして今その瞬間に誰かと共感し合っていること」と、“今、この瞬間”を描いた作品を象徴する言葉だと説明しているのも興味深い(→ アリシア『Here』インタビュー)。

ゴスペリックなオープニングの“I Know Better”でジョンは、「自分の知っていることを歌にしろと人は言う/だけど僕はみんなが望むことを歌ってきた/言われたとおりに実行する人たちもいる/だけどベイビー、今回ばかりは僕はそうするつもりはない」と歌い始め、「もし音楽が僕を選んでくれたというなら、喜んで歌おう/僕は自分が知っていることを歌おう」という決意で締め括る。そして本編最後の“Marching Into The Darkness”では、「僕たちは消えゆく星を追いかけている」、「僕らが進んでいる先は暗闇」と歌い、「僕は暗闇に向かって行進したい」と叫ぶ。インディ・ロック的にも響く力強いバンド・サウンドは、暗闇を行進するために彼が携えた松明のようなものかもしれない。だが、本作のプロモーションでのライブ・パフォーマンスは、今のところほとんどが自身の弾き語りだ(→ ライブ映像)。つまり本作『Darkness and Light』の本質は、野心的なサウンドにあるのではない。核となっているのは、ただ自分の歌を追い求め、前進していきたいという、シンガー・ソングライターとしての矜持なのだ。

1. I Know Better
2. Penthouse Floor (feat. Chance the Rapper)
3. Darkness and Light (feat. Brittany Howard)
4. Overload (feat. Miguel)
5. Love Me Now
6. What You Do To Me
7. Surefire
8. Right By You (for Luna)
9. Temporarily Painless
10. How Can I Blame You
11. Same Old Story
12. Marching Into The Dark

[Japanese bonus tracks]
13. Drawing Lines
14. What You Do To Me (Piano Demo)
15. Love You Anyway