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ALICIA KEYS interview / 「“メイクアップをしない”というのはメタファー。サウンドにも反映されていると思う」

アリシア・キーズが、4年ぶりとなる新作『HERE』をこの11月に発売。すでに本国では全米チャート初登場2位、R&B/ヒップホップ・チャート1位となるなど好評を博している中、11月30日に待望の国内盤がリリースされる。これを記念して敢行されたオフィシャル・インタビューを紹介すると共に、アリシアが『HERE』に込めた想いを感じてみよう。

通訳・インタビュー/渡辺深雪 文/末崎裕之 (bmr)

母親になったアリシア・キーズは、髪をばっさり切り、彼女を見出した長年のマネージャーと離れ、『Girl On Fire』で新たなイメージを打ち出した。あれから4年、母として、女としてさらに逞しくなったアリシアが『HERE』で帰ってきた。

まず最初にリード・シングルとして発表されたのは、イランジェロ(Illangelo)らと制作した“In Common”だった。トロピカル・ハウス~ダンスホール的な流行を吸い取ったようなサウンドも新鮮だったが、なにより驚きだったのは、“In Common”のアートワークでも示された、彼女のノーメイクの姿。そもそもアリシアは、まだ新作を制作中の段階だった昨年の時点で、夫スウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)から「自分でメイクしたときが一番きれいだ」と言われたこともあってメイクを自分でやる機会が増えたことを明かし、「メイクは大好き!」とVogue誌に話していたものだが、それから1年と経たないうちに“すっぴん”派に。しかし、それはただの気分の問題ではないようだ。

メイクアップをかなり薄くすることに決めた時は怖かったのよ。居心地も悪かったし、すごく脆い気分だったし、何よりも不思議な感じがしたわ。でもその後、段々と慣れてくるうちに、メイクを取り払ったことで、私がすがりついていた多くの他のことについても払拭することが出来たことに気付いたのよ。

だから、“メイクアップをしない”というのはメタファーであって、そのまま額面通りに受け止められるべきものではないの。自分を隠すことによって、ありのままの正直な自分、自分の真実とか現実……今の自分がどう感じているのか、何を考えているのか。そういうこととつながれていなかったことに対する気付き、っていうかね。
そしてそれがアルバムのサウンドにも反映されているんだと思うわ。この気付きのプロセスは、今までの自分の変化の中でもっとも大きな発見だったと思ってる。自分自身に対して『今の自分についてどう思う?』、『ああ、どうしてああいうことが私をとても居心地悪く感じさせるんだろう?』、『それってどういう意味?』って問いかけたのよ。

それからよく思うんだけど、『これは一体誰のメッセージなんだろう?』って。自分自身の中にある“声”って、とかく自分のものと思いがちだけれど、それはもしかしたら自分自身ではなく、例えば母親から譲り受けたものなのかもしれないし、ただ単にテレビや環境から受け取っただけのものだったり、かつて父親が言ったことについて私が『うーん』と思ってしまったことかもしれないでしょ。どういうメッセージを自分が受け取っているのか、ということについても大きな発見があったの。そうすることで外部から見聞きして受け取った色々なことを手放してみて、実際には自分がどう思っていて、何を感じているか、何がどう自分の感情を左右するのか、そういうことにもっと目を向けていこうとしているところよ。個人的な学びのプロセスね。
すごく気に入っているのよ、自由にそれを話すこともできるようになってきたし、そうすることで自分の成長を実感できたり、自分自身について変えていきたい部分についても気付くことが出来るかもしれないから。変えていきたい、というのはフィジカルな意味じゃなくて、自分の内側の、エモーショナルでスピリチュアルな意味でね

『HERE』での変化については、精神面の変化・成長・解放が大きい、とアリシアは繰り返す。

今までの自分とは大きく変わった、新しく生まれ変わった、って言われるのは素晴らしいことよ。そうね、あなたの言う通りだと思う。そういう変化に私を導いてくれた大きな理由としては、やっぱり“自分自身の成長”っていうことが挙げられるんじゃないかしら。今までの私は自分で自分を抑制していたんだ、っていうことに気付いたのよ。『何をどういう風に言うべきか』とか、『こんなことを言ったら誰かを傷つけてしまうんじゃないか』という風にね。それで結局はなるべく一番安全な、無難なモノの言い方になってしまったり。わかるかしら? “自分がどう感じているか”ということに対してクリアに自覚することと、それを人とシェアしたり、それについて発言するということは本当に大事なことだと思うのよ。

そうね、それが(大きな変化の)始まりだったんだと思うわ。自分自身とも徹底的に向き合ったの。自分自身についての真実とは何かを知るためにね。それから、自分の中の傷つきやすくて弱い部分も認めてあげた。本音を隠したり、いつも“いい顔”だけを見せたりしないように、って。だから、今の私の人生の中ではそういうところが大きく変わったし、自分自身の声や気持ち、考え方を自分自身がきちんと聞いてあげられるようにって、意識しているところなの。

それに、今の世界の現状ってすごく張りつめた空気だし、とてもクレイジーじゃない? 誰もがニュースで見聞きして知っていることだとは思うけど、世界中の情勢が即時でわかるようなアクセスを手に入れた今、『こんな状況がいつか変わる日が来るの?』、『こんな現状から前進できるの?』とか、『私たちって一体誰なんだろう?』、『私たちはどこに向かっているんだろう?』みたいな疑問を持ったり、時には絶望的な気分になることもあるでしょう。
私は今回、私たちが皆が感じているそんな疑問や複雑な感情や、『自分が誰なのか』、『私は何を感じているのか』っていうことについて、とことん掘り下げる機会があったし、結局はそれが相乗効果となって今回のような訴求性のある、荒々しくてリアルな、正直な音楽を作り上げることが出来たんだと思うわ。今起きていることの全てとリンクできるような内容の作品が出来たと思っているわ

「荒々しくてリアルな」音楽というのは、まさしく『HERE』を形容する表現だろう。今回は、アリシア&夫スウィズに、アンソニー・ハミルトン(Anthony Hamilton)からジェイ・Z(Jay Z)まで手がけるマーク・バトソン(Mark Batson)の3人を中心としたチーム=イルミナリーズ(The Ill’uminaries)名義のプロデュース・クレジットが多いが、特に、『As I Am』以来のタッグとなるマーク・バトソンが、土臭さ、生々しさのような要素を持ち込んだのでは、という印象だ。そしてアリシアとは“You Don’t Know My Name”から度々組んでいるソングライターのハロルド・リリー・ジュニア(Harold Lily, Jr.)の4人が、今回のアルバム制作の中心だという。

今回のアルバムでプロダクション部分を担当した主要なメンバーは4人いるの。まず私、それからブルックリン出身のマーク・バトソン、ブロンクス出身の夫、それからヴァージニア出身のハロルド・リリー。だから作業中もニューヨークっぽいエネルギーに溢れていたし、それぞれに人生観や自分自身に対する違った視点を持った4人と共同作業がしたかったの。

それに、私たちの誰もが自分たちの一番深い部分まで掘り下げようとする勇敢な姿勢を持ち合わせていたし。ニューヨークというのは私たちの共通項でもあるから、それが表出したのは当然ではあると思うし、同時に私を育ててくれたのも、見聞きしてきたストーリーや出会った人々、通りすがりのクルマや私のヘッドフォン、ストリートや地下鉄から聴こえてくる音楽も、その全てがニューヨークだから、やっぱりそのサウンドに一番よく共鳴してしまうのよね。その上でフォークやブルース、ゴスペルみたいなサウンドやギターやピアノと掛け合わせてみたら、私をインスパイアしてくれたもの全てを完璧に定義するものが出来上がった、というわけ

私はニューヨークが大好きでしょうがないの。私を育ててくれたニューヨークという存在が、私たちがやっていたことの全ての面に現れてくるのは自然な流れだと思う」とも語るアリシア。開幕の“The Gospel”ではウータン・クラン(Wu-Tang Clan)“Shaolin Brew”が引用されるし、アリシア、スウィズ、そしてスウィズの右腕ミュージックマン・タイ(Musicman Ty)と制作した“She Don’t Really Care”ではア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)の“Bonita Applebum”をサンプリングし、続く“1 Luv”ではナズ(Nas)の“One Love”のビートに乗る、という趣向も披露する。

ちなみに“She Don’t Really Care”では、“Bonita Applebum”の元ネタであるRAMP(=ロイ・エアーズ・ミュージック・プロジェクト)を意識してだろう、ロイ・エアーズ本人を召喚するという遊びも。発売翌日にアポロシアターで行われたリリース記念ライブにもロイ・エアーズは登場したとか。

イルミナリーズにはその他にも準メンバーと呼べる人が何人かいるの。素晴らしいリリックを提供してくれた人もいるし、他にも素敵な音楽を作ってくれたメンバーはいるわ。

主要メンバーに話を戻すと、4人がそれぞれに幅広くこのアルバムに貢献してくれた中で、マーク・バトソンはピアノや歌詞、メロディでも様々な音楽性をもたらしてくれたし、スウィズは熱狂的でパワフルな勢いと同時にメロディや歌詞についても貢献してくれた。ハロルド・リリーは大半が歌詞やストーリーテリングの部分で活躍してくれたわね。私はピアノ、プロダクション、リリック、そしてストーリーテリングを担当したの。
表現方法が似ている人たちと仕事するのはクールよ、誰かがリードを取って、その後でまた違う誰かが代わりにリードを取る、ということが出来るし、作業がとても協力的で流動的になるから、音楽が出来上がるまでの時間も速くなって、強烈でパワフルなものが出来ることになるのよ。ああいう風に作業したのは今回が初めてだったんだけど、とても気に入っているわ
」(→ P2へ)

1. The Beginning (Interlude)
2. The Gospel
3. Pawn It All
4. Elaine Brown (Interlude)
5. Kill Your Mama
6. She Don’t Really Care / 1 Luv
7. Elevate (Interlude)
8. Illusion Of Bliss
9. Blended Family (What You Do For Love) [feat. A$AP Rocky]
10. Work On It
11. Cocoa Butter (Cross & Pic Interlude)
12. Girl Can’t Be Herself
13. You Glow (Interlude)
14. More Than We Know
15. Where Do We Begin Now
16. Holy War

[deluxe edition]
17. Hallelujah
18. In Common

[Japanese edition]
19. In Common (Black Coffee Remix)
20. In Common (Kaskade Remix)