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ALI SHAHEED MUHAMMAD interview/ ATCQアリが語る『ルーク・ケイジ』の音楽

いよいよ本日からNetflixで配信スタートとなった『Marvel ルーク・ケイジ』。90年代ヒップホップを意識したという製作総指揮の発言、ギャング・スターの曲名から付けられた全エピソードのタイトル、ラファエル・サディークら数々のR&B~ヒップホップ・アーティストのカメオ出演、エイドリアン・ヤング&アリ・シャヒードによる音楽……2010年代版ブラックスプロイテーションとも評されるドラマ・シリーズだ。bmrでは、この音楽に携わったアリがちょうど来日したところをキャッチ。タイトなスケジュールの中、数時間しか寝ていないらしくやや疲れた表情を見せたが、「今日は日本のみんなは休みなんだろ?」(※取材日は祝日でした)と言って真摯に取材に応じてくれたアリ。9ヶ月かけて制作したという『Marvel ルーク・ケイジ』の音楽について、そしてエイドリアン・ヤングとの関係について語ってくれた。

取材・文/末崎裕之 hiroyukisuezaki (bmr)

いよいよ9月30日(金)からNetflix独占で世界配信となった『Marvel ルーク・ケイジ』。壁をも打ち砕く怪力、銃弾も通用しない頑丈な皮膚を手に入れ、「雇われヒーロー」としてニューヨークはハーレムを守るために戦う黒人スーパー・ヒーローの物語だ。

製作総指揮、そしてエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるのは、故ザ・ノトーリアス・B.I.G.の伝記本を執筆した元ヒップホップ・ジャーナリストであり、そのビギーの伝記映画『ノトーリアスB.I.G. / Notorious』の脚本を務めたことでも知られるチェオ・ホダリ・コーカー。オリジナルは70年代に生まれた黒人ヒーロー、舞台はハーレムということもあって、『Marvel ルーク・ケイジ』は、設定は現代でありながらも、『シャフト』/『黒いジャガー』などのブラックスプロテーションものの薫りを漂わせ、ブラック・カルチャーに深く根差したドラマになっている。

「中立地帯」としての意味を持つバーバーショップ、軽妙かつ洒落たセリフなど、bmr読者ならニヤリとさせられる場面は多々あるはずだ。予告編で披露された、フードを目深に被ったルーク・ケイジのシーンは、「Black Lives Matter」運動の契機となったトレイヴォン・マーティン射殺事件を意識したものでもある(そしてルーク・ケイジには銃弾は効かない)。

第1話の「Moement Of Truth」に始まり、全13話のエピソード・タイトルがすべてギャング・スター(Gang Starr)の曲名から名づけられていることも既報どおりだが、このドラマのブラックネスは、音楽の側面においても同様だ。このドラマの第1話のオープニングは、カット・ケミストらもサンプリングしたアーニー&ザ・トップ・ノーツ“Dap Walk”から始まるし、セクシーなシーンで艶っぽく響くコールマン・ホーキンスを始め、ソニー・ロリンズやドナルド・バードといったジャズから、ウータン・クランまで劇中では流れる。また往年のコットンクラブをイメージした劇中のクラブ「パラダイス」には、ラファエル・サディーク(Raphael Saadiq)、フェイス・エヴァンス(Faith Evans)といった、現代の実際のR&B~ヒップホップ・アーティストたちがゲストとしてエピソードごとに登場。そして、劇中スコアをエイドリアン・ヤング(Adrian Younge)とアリ・シャヒード・ムハマド(Ali Shaheed Muhammad)のふたりが手がけていることでも話題だ。

この注目作『Marvel ルーク・ケイジ』の配信スタートとなるまさに今月、〈Soul Camp〉出演などのためにアリ・シャヒードがちょうど来日したということで、bmrでは直接、彼に話を聞いた。

Adrian Younge & Ali Shaheed Muhammad

音楽面でこだわったのは、30人編成のオーケストラ。僕たちは一切シンセサイザーは使っていない。オーガニックでリッチな音が必要だったから

――『Marvel ルーク・ケイジ』の音楽を手がけているとのことですが、そもそもどういう経緯で参加することになったのでしょうか?

「製作総指揮者で、エグゼクティヴ・プロデューサーも務めているチェオ・ホダリ・コーカーから連絡をもらったんだ。それも彼は、自分とは別に、エイドリアン・ヤングにも連絡をしていたんだ。エイドリアンと僕が一緒にアルバムを制作中だってことも知らないでね。彼から、Netflixで始まるMarvelの新しいドラマ・シリーズの話を聞いて、実際に会って、彼のアイディアにワクワクしたし、これは自分たちにとってもこれまでになく重要な作品になるだろうと思って、やるべきだと思ったんだ。だからアルバムの制作を一旦ストップして、9ヶ月を『ルーク・ケイジ』のプロジェクトのために捧げたよ」

――具体的にはいつ頃から『ルーク・ケイジ』の音楽を作り始めたんですか?

「1年ほど前だね。チェオからメールが来たのは去年の7月下旬くらいだったかな……で、脚本が届いたのが8月終わりとか頃で、撮影が9月。10月くらいに映像があがってきたから、その頃くらいから作り始めたんじゃなかったかな」

――エイドリアンと制作しているアルバムというのは『The Midnight Hour』というタイトルだと思いますが、では現在はまたその制作に戻っているということですか?

「そのとおりだよ。よく知ってるね(笑)」

――エイドリアンとはここ最近ずっと組んでいますが……ソウルズ・オブ・ミスチーフ『There Is Only Now』でナレーションを務めたのが初めてでしょうか?」

「そう、それが最初だね」

――彼とずっとタッグを組んでいる理由は?

「彼はとても才能があるから、一緒にやりやすい相手なんだ。ミュージシャンシップという点でいうと、僕らはお互いに切磋琢磨するところがあるし。それから、ふたりとも出自が似ている。彼はDJでサンプリングから始めたし、僕もDJだったからサンプリングから始めた。サンプリングは大好きだし、レコードを掘るのも愛しているけど、『Low End Theory』(1991年)の後ぐらいから、“サンプリングで出来ることは限られている”って感覚があった。それで僕は楽器の演奏を学ぶようになったんだ。エイドリアンも同じような経緯を辿っている。だからかな、僕たちは制作を始めると、すぐに曲が出来上がるんだ。いいパートナーだよ」

――そもそも彼とはどういう風に知り合ったのですか?

「Twitterなんだ(笑)。彼がスコアを手がけた『Black Dynamite』のサウンドトラック(2009年)を買った時、このエイドリアン・ヤングって男は60代くらいの年寄りだろう、って思ってて(笑)。実際には僕より若かったんだけどね。で、ある時、僕の友人のミュージシャンがエイドリアンと一緒にやりたいって言ってたんだけど、1週間くらい、いろんなところからエイドリアン・ヤングの名前をずっと耳にしたことがあって。それでTwitterで、僕の友人が会いたがっているって彼にメンションを飛ばしたら、ちょうど彼がニューヨークにいて、しかもちょうどその時いた場所から5分くらいの距離だったんだ。それで一緒に朝食を食べて、そこから友達になったんだよ」

――『ルーク・ケイジ』は、予告編映像ではナズなどのヒップホップがBGMになっていましたが、実際のドラマではもっとブラックスプロイテーションのような感じもあって、ヒップホップだけでなく昔のファンクやジャズも流れますよね。チェオからは特にこうしてほしいといったオーダーはあったんでしょうか?

「オリジナルのルーク・ケイジは70年代前半に生まれた作品だ。まさにブラックスプロイテーションが盛り上がっていた時代だね。その時代の要素も多少入れつつも、でもチェオはあくまで現代の話にしようとしていた。90年代初期のゴールデン・エラのヒップホップをイメージしているという話はあったけど、だからといって当時の曲をただ使うのではなく、そういう空気感を持ったオリジナルを用意した。それから、ゴールデン・エラのヒップホップがサンプリングしてきた、サンプリング・ソースとなった音楽にもインスパイアされて、ブラックスプロイテーションの要素も入れつつも、『ルーク・ケイジ』ならではのスペシャルな音楽になるように心がけたよ」

――『ルーク・ケイジ』の音楽を語るメイキング映像で、エピソードごとにアルバムを作ったような感じだから、「13話あるから13枚のアルバムを作ったようだった」とエイドリアンが振り返っていました。先ほど制作期間は9ヶ月もあったとおっしゃってましたが、実際にはどういう風に進めていったんでしょうか?

「まずは、“スパーリング・セッション”と呼ばれるプロセスから始めるんだ。チェオ、それから音楽スーパーバイザー、音楽エディターたちが集まって、どの部分に音楽が必要かを話し合う。それからエイドリアンと僕がスタジオに行って、チェオの求める方向性を探るんだ。

音楽面でこだわったのは、30人編成のオーケストラ。他のTVとは違う、本物の音楽を僕らは必要としたんだ。コストがかかるから、他のTVでは生のオーケストラなんて使えないからね。大体はシンセサイザーで済ませてしまうけど、僕たちは一切シンセサイザーは使っていない。オーガニックでリッチな音が必要だったから。

エピソードを観て、どこで盛り上げるかを見極める。抑えるところは抑えて、抑揚のようなものを付けるんだ。他にも、テーマというほどではないけど、そのキャラクターに沿った音楽を用意したり……やることはたくさんあるんだ。

あともうひとつ思い出した。マーベル・スタジオにカリームという人がいるんだけど、その人が決まって言うのが、『テンポ! テンポ! テンポ!』(笑)。スピード感についてよく言われていたね。そこまで要らないんじゃない?って思うこともあったけど(笑)」

――メイキング映像でもチェオが「曲のスピードに気を配った」と言っていましたね(笑)。ところで、オーケストラというのはミゲル・アトウッド・ファーガソンの指揮で?

「そう。エイドリアンと僕は、曲を書いたらミゲルに渡して、彼にオーケストラの編曲をお願いした。素晴らしい仕事だったよ」

――これだけ音楽に力が入っているわけですからサウンドトラックにも期待したいところなんですけども。ヴァイナルで出る予定だという記事を見ましたが、本当でしょうか?

「そうなんだ。サウンドトラックは10月7日にリリース予定。(ドラマの配信開始から)1週間あるけど、その間にみんなにドラマをしっかり見てもらって(笑)。まだサウンドトラックについて詳しく話すことはできないんだけどね。10月7日のデジタル発売と一緒に出るかはちょっと分からないけど、ヴァイナルが出る予定もあるよ」

――ア・トライブ・コールド・クエストの新作が出るという話もありますが、新曲が収録されたり……なんてことは?

「(笑)。それはコメントできないんだ(笑)。でも質問してくれてありがとう」

――すみません、どうしても聞きたくて(笑)。第1話ではラファエル・サディークの出演シーンで彼の新曲も流れていましたが、ああいうのもあなた方からのオファーで決まったものなんでしょうか?

「いや、ラファエルはチェオからのオファーだね。ラファエルが参加してくれたのは嬉しいことだよ。ちょうどラファエルはニュー・アルバムを制作中だったんだけど、チェオに送ったのはまだ未完成のアイディア段階のもので、歌詞のない音楽だったから、チェオが採用するとは思わなかったらしいんだ。でもチェオがすっかり気に入ってしまって、だからラファエルはある意味で仕方なく、その曲を完成させなくちゃいけなかった(笑)。運よく、撮影の直前に曲が出来上がって、彼の出演シーンにぴったりの仕上がりになったよ」

――時間がないのでこれで最後の質問で。音楽的な面において、お気に入りのシーンはありますか?

「どのエピソードだったかな……第2話かな? オープニングで、マライアのオフィスの近くてルークが子どもに銃を向けられている。エピソードの最後にまたこのシーンが出てくるわけだけど、オープニングではちょっとだけしか聞けなかった音楽が最後に全編がどん、と出てきて、すごく印象に残ったよ」

――第2話ですね。

「記憶力いいね」

――(笑)。ありがとうございました。