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MAXWELL live report / デビュー20周年、マックスウェルが魅せた「黒い夜」

昨年のディアンジェロに続いて、こちらもデビューから20年、ついに待望の初来日公演が実現。一夜かぎりの貴重な機会となった「黒い夜」を詳細にレポートする。

文/林 剛 写真/Masanori Naruse

プロモーションで一度は来日していたものの、一般向けの来日公演はデビュー20年目にしてようやく。ネオ・ソウル、というよりニュー・クラシック・ソウルと呼ばれたムーヴメントの旗手として注目を集めた自作自演のR&Bシンガーが、久々にリリースした新作を提げて遂に日本のステージに立った。ホーン・セクションを担当するのはキーヨン・ハロルド(トランペット)とケネス・ウェイラム3世(サックス)。昨年の同時期に来日公演を行ったディアンジェロにもそっくり当てはまる枕だが、今回はマックスウェルだ。

デビュー翌年(97年)に出されたMTVアンプラグドのライヴ盤を耳にして「生の歌声に接したい」と思い続けていたファンも多かったと思う。一方で来日前には、異常な騒がれ方だった昨年のディアンジェロ公演と比べて「来日初公演のわりにあまり盛り上がっていない」などという声も。その原因のひとつとして、マックスウェルの音楽はヒップホップと距離を置いている(と本人も最新のインタヴューで話している)ことから、ヒップホップ育ちの若いリスナーに訴えかける力が弱いのでは?と結論づける向きもあった。それが事前の盛り上がりに欠けた理由なのかどうかは別として、エレピやギターを操りながら歌うディアンジェロ、基本“歌うたい”に徹しているマックスウェルは、ともにプリンスやマーヴィン・ゲイを深く愛しながらも、その個性は微妙に、いや、かなり違う。

何しろマックスウェルは、R.ケリーが作った“Fortunate”のような、いわゆるネオ・ソウルとは違うストレートなR&Bも歌っていたし、UKソウル的なセンス、とりわけシャーデー(スチュワート・マシューマン)の影響が色濃く滲み、ディアンジェロが打ち出す70年代ソウル~ファンク趣味よりも80年代アーバン・ソウルの薫りが強い。そう感じていただけに、ライヴ前日のトークイヴェントで最近よく聴いている音楽としてdvsn(ディヴィジョン)を挙げていたことには非常に納得がいった。いわゆるアンビエントR&Bの先駆け的な曲を歌い、ディアンジェロでいえば“Untitled (How Does It Feel)”のようなメロディ強度の高いスロウ・ジャムを歌い続けてきたのがマックスウェルという人なのだ。そして、今回の来日公演もそんな彼の資質をあらわにするステージとなっていた。

 

韓国ソウルで行われたR&Bフェス〈Seoul Soul Festival〉への出演に続く、東京・新木場スタジオ・コーストでの一夜限りの公演。客電が落ちて会場に流れ始めたのがプリンスの“Kiss”だったのはマックスウェル側の演出なのだろうか? その後、最新作『blackSUMMERS‘night』からの“Gods”などが流れ、ステージ後方のスクリーンにネルソン・マンデラやマーティン・ルーサー・キング、マルコムXなどといった革命家たちを映し出したのは、昨今の「Black Lives Matter」ムーヴメントを想起させるためだったのだろうか?などと考えているうちに、新作のレコーディングにも参加した8名のバンド・メンバー(それぞれのキャリアについては割愛するが、全員が数々の大物たちとセッションを繰り広げてきたスター・プレイヤー)が各自の定位置についた。

デビュー作『Maxwell’s Urban Hang Suite』の序曲でもあった“The Urban Theme”の妖しくスムーズなグルーヴが彼らによって紡がれ、マーヴィン・ゲイ・マナーの“Dancewitme”に切り替わったところでマックスウェルがステージ後方から日本の国旗をたなびかせて登場。細身のスーツを身に纏い、軽やかにステップを踏む彼は見かけからしてファンを裏切らない。続いて“Everwanting:To Want You To Want”へと繋いでファルセット・ヴォイスを交えながら深い夜に誘い込むようなその歌いっぷりはソウル・スタイリストと呼ぶにふさわしいもので、これまたファルセットと地声を巧みに使い分けて歌う“Bad Habits”でも幻想的な世界に観客を引き込んでいく。

最初のまとまったトークとして日本のファンへの感謝やデビュー20周年を迎えたことに対する気持ちを表明しつつ、トラヴィス・セイルズのピアノをバックにアドリブも交えて語るように歌ったのは“Love You”。アルバム・ヴァージョンと違ってスロウ・テンポだったので気づくのに時間がかかったが、ここでの静かなムードを保ったまま、紅一点のラティーナ・ウェッブによる控えめなバック・ヴォーカルとともに新作からの“Hostage”を歌い上げていくマックスウェルは惚れ惚れするほどスタイリッシュだ。

そして、この流れで聴かせたのが、MTVアンプラグドのライヴ(盤)で歌い『Now』にスタジオ録音ヴァージョンを収めた“This Woman’s Work”。女性(生命)の神秘を称えたケイト・ブッシュ曲のカヴァーで、マックスウェルの美しく繊細なファルセットが会場を静寂に包み込む。

映像を用いてケイトのオリジナルと対比させるように始まったこれは、聴く者を広大な宇宙空間に放り込むかのような仕掛けで、プリンスをはじめとする故人への追悼も兼ねていた……と分かったのは、スクリーンに今年亡くなった著名人の在りし日の姿が映し出されたから。そこには千代の富士(九重親方)、永六輔、大橋巨泉の顔写真も映し出され、客席がざわつき始めた。元横綱・千代の富士はアメリカのモハメド・アリに対して日本が誇る国民的アスリート、永六輔は全米No.1ヒットとなった坂本九「上を向いて歩こう」(米題「SUKIYAKI」。テイスト・オブ・ハニーのカヴァーでも有名)でペンを執った作詞家、そして大橋巨泉はかつてジャズ評論家でもあったという事実を踏まえればそれほど可笑しがることでもないとは思うが、おそらくこれは日本の関係者に判断を委ねて選んだ結果なのだろう。マックスウェル本人のチョイスではなくても、日本の著名人を映し出すことで日本のオーディエンスと気持ちを分かち合い、親密になろうとする彼の心意気には胸が熱くなった。もっとも、これを含めた映像演出に対しては全体的にクドイなとも感じたのだが、2013年の〈Essence Festival〉で“Fire We Make”を歌った際にも後方のスクリーンに映るアリシア・キーズとチャネリング的な合体・交信をしていたマックスウェルだけに、こうした演出は彼の趣味なのかもしれない。

曲間のトークや歌唱中のアドリブで「コンニチワ!」「トキオ!」「アリガト!」「イチバン!」といった日本語を交え、笑顔で客席とコミュニケーションを図ろうとする陽気な姿は、アルバム制作に何年もかけてしまうほどの完璧主義者で繊細で気難しそうなカリスマといったイメージとは正反対だと感じた人も多かっただろう。が、実際の彼はもともとお茶目なのかもしれないし、年齢を重ねるごとに丸くなってきたのかもしれない。

そういえば、前作『BLACKsummers’night』を発表した2009年7月に〈Essence Music Festival〉で彼のライヴを観た時はまだデビュー当時のような危険な香りを発していたが、2013年の同フェス(〈Essence Festival〉と改称)では「もう40歳になったことだし、自分のペースでゆっくりやるよ」などと言って随分とリラックスした表情を見せていた。そして、今年の同フェスおよび来日公演では、「皆をステージに上げて一緒になりたい」といった旨の言葉を客席に投げかけ、愛嬌を振りまく。デビュー20周年となるアニヴァーサリー・イヤーということも手伝って、いつも以上にハッピーな気分なのだろう。

舞うようなファルセットを絡めて歌ったレイドバック・ソウル“Lifetime”ではトラヴィス・セイルズによるコズミックなシンセ・ソロが飛び出し、最新作のリード・シングル“Lake By The Ocean”も穏やかに歌い始めながら終盤ではホーンと相見えつつ激しくなっていくなど、ライヴ中盤以降も躍動感とエモーションに満ちたパフォーマンスで客席を熱狂させる。

そして、最新作からの“1990x”を前フリにして初期の傑作グルーヴィ・チューン“Sumthin’ Sumthin’”へとなだれ込んでいった展開は、客席の反応からしても間違いなく本ステージのハイライト。バック・コーラスも兼任するキーヨン・ハロルドとケネス・ウェイラム3世のふたりが舞台中央にせり出してタイトにホーンを鳴らし、ドラムのダリル・ハウエルやベースのデリック・ホッジらによってファンキー&スムーズなグルーヴが醸成されていくあたりは最高の心地よさで、長年待ったマックスウェルの来日公演をようやく観られたという感激が改めて込み上げてきた瞬間だったように思う。ここからシームレスに繋いだ“Get To Know Ya”はジェイムズ・ブラウン“The Payback”のリフを挿みながらの演奏で、これには昨年のディアンジェロ公演におけるJB曲引用のファンク・ジャムを思い出した人もいたのではないだろうか。

力強い地声にファルセットを織り交ぜて歌うスロウ・ジャム“Fortunate”にも、“Sumthin’ Sumthin’”と同じくらい大きな歓声が上がった。ここでもアドリブを盛り込み、プリンス“Adore”の一節を歌って殿下への傾倒ぶりを改めて示したあたりも彼らしい。キーヨン・ハロルドのマイルス・デイヴィス風ミュート・トランペットによる長尺ソロも客席を大いに沸かせた。さらにキーヨンと同じセントルイス出身のシェドリック・ミッチェルによるハモンドB3での泥臭くうねるようなオルガン・ソロがチャーチな雰囲気を作り出し、そこからライヴの定番曲にしているアンドレ・クラウチ feat. マーヴィン・ワイナンズ“Let The Church Say Amen”へと続けていく教会ルーツ(彼の場合は歌うことよりも聖書を読むための場所だった)への回帰は、セクシーというよりダンディと言いたいマックスウェルの紳士的な所作を一層強調していたように思う。ダリル・ハウエルによる歯切れのよいドラム・ソロから始まった“Ascension (Don’t Ever Wonder)”はダンサブルなアレンジで、ここでもファルセットを炸裂させたマックスウェルは力強く観客を煽っていく。アーニー・アイズレーっぽいワイルドなギター・ソロを披露したホッド・デイヴィッドも最後の最後で存在をアピール。演奏を終えたメンバーたちがステージ前方で横一列になって挨拶した時には開始から1時間20分が経過していた。

全米ツアーではクロージング・ナンバーとして歌われている“Pretty Wings”は今回の来日公演ではオミット。また、ツアー初期にプリンス追悼として歌っていた“Nothing Compares 2 U”も歌わず。それらを除けば、基本的な流れは過日筆者がニューオーリンズで観た〈Essence Festival〉でのステージとほぼ同じで、今回はそこに日本向けの演出を挿んでいくという展開。来日公演の方が断然良いと思えたのは、初めて日本でライヴを行うマックスウェル本人の昂ぶる気持ちがダイレクトに伝わってきたからなのかもしれない。日本でも人気が高い“Whenever Wherever Whatever”や“…Til The Cops Come Knockin’”は今回のツアー・セットリストにないようだが、それらを歌わなかったことを残念がる声がほとんど聞かれなかったことが来日公演の充実度を物語っていたように思う。なんとも後味の良いライヴ。本人によれば次作『blacksummers’NIGHT』は今回ほど待たせないとのことで、完成のあかつきにはいち早く来日してくれることを望んでいる。

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