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FEATURE

『Empire / エンパイア 成功の代償』スペシャル

音楽業界に渦巻く陰謀と、ヒップホップ/R&BレーベルのCEO一家が直面する葛藤を描いた『Empire / エンパイア 成功の代償』は、視聴率戦争が激化するアメリカTVドラマ界でも屈指の作品だ。ティンバランドが仕切ったサウンドトラックの大ヒットも記憶に新しい。そんな『Empire / エンパイア 成功の代償』の第2シーズンが日本盤DVDとしてリリースされた今、このドラマを改めて紹介する。

文/丸屋九兵衛

■bmr読者が、『Empire / エンパイア 成功の代償』を見るべき理由

「海外ドラマ」というジャンル――ほとんどの場合、米国産TVドラマだ――が、このところ途轍もないハイクオリティ化を遂げているのはご存じだろうか? その象徴といえるのが、ここ数年のアメリカでトレンドとなっている「映画アクターたちのTVドラマ進出」である。かつてのアメリカでは、映画俳優とTV俳優の間にハッキリと壁が存在していた。アクターたる者は全員が銀幕を指向し、映画という世界に辿り着いたエリートはTV界を振り返らない……というのが常識だった。

だが今では、「映画クラス」の俳優たちがドラマに出ることも珍しくなくなった。予算も劇場映画なみ。こうしてどんどんレベルアップするドラマのクオリティ、それに伴って激化する視聴率戦争。そんな中でも異彩を放っているのが、本稿で紹介する『Empire / エンパイア 成功の代償』。ヒップホップを中心とした音楽業界に関わるファミリーの愛憎をテーマに、驚くほどの大ヒットを記録しているドラマである。本国アメリカのみならず、日本でも好事家たちの話題をさらっている。

しかし、舞台はヒップホップ/R&Bの世界だ。物語を楽しむための前提となっているのは、ブラック・ミュージックの歴史や作法や美意識。それらが(ある程度までは)一般常識として通用しているアメリカではともかく、ここ日本では――それが「海外ドラマファン」と呼ばれる人たちであっても――理解されるものだろうか?

では、ヒップホップ/R&Bの常識を自然に体得しているのは誰だ? 我々、ブラック・ミュージック・ファンではないか。そんな特権を活かさない手はない。だから勧めたいのだ、この『Empire / エンパイア 成功の代償』というドラマを。海外ドラマファンに独占させておくのではなく(no offense)。そして、ヒップホップ/R&B業界を描くドラマだけあって、音楽的快楽にもこと欠かない(後述)。物語がさらなる展開を見せる第2シーズンが日本盤DVDとしてリリースされた今、そんな『Empire / エンパイア 成功の代償』を改めて紹介していきたいと思う。

 

■それはヒップホップだからこそ

このドラマの舞台が、ロック業界ではなく、ヒップホップでなければならなかった理由。それは、あらゆる音楽の中でヒップホップが最も素直に「ビジネス」を語るジャンルだからである。もちろん、どんなジャンルでもプロである以上、アーティストはビジネスと無縁ではいられないだろうが、「アーティストがビジネス志向を露わにすること」が、ごく自然に受け止められるのがヒップホップの特徴であり、「アーティスト転じて経営者」がごく当たり前に存在する。

そして、もう一つ重要なのはファミリー志向であること。成功したアーティストは家族・一族のメンバーを要職につけ、地元仲間をフックアップするのが常識だ。ファミリー、音楽、ビジネス。この三拍子を揃えて展開されるドラマの舞台は、やはりヒップホップであるべきなのだ。

主人公はルシウス・ライオン、40代のベテラン・ラッパーにしてプロデューサー、そしてビジネスマン。フィラデルフィアのストリートでハッスルするドラッグディーラーから身を起こし、ラッパーとして一世を風靡。その後は、エンパイア・エンタテインメントというレコード会社を起業し、経営者としての才覚を見せつけた男である。全てが順風満帆に見えた、そんなある日。「筋萎縮性側索硬化症(ALS)で余命3年」と宣告された彼は、3人の息子の中から後継者を指名しようと決断する。だが……。

長男アンドレは大学でビジネスを専攻したエリートだが、いかんせん音楽的才能ゼロ。ラッパーから叩き上げた父としては物足りない。次男ジャマルは才能豊かなシンガー/ソングライターだが、こともあろうにゲイ。昔気質で同性愛蔑視な父としては、言語道断の問題外である。三男ハキームはラッパー。天下一品な態度のデカさがヒップホップ的価値観では最高なのだが、あまりにも素行不良。自分か築き上げた会社を安定させたい父としては不安を拭えない。……と、一長一短な息子たちにルシウスが悩む中、30年の刑に服していたはずの元妻クッキーが17年のオツトメを経て突然釈放され、帰還する。ドラッグディールの罪をかぶって服役したクッキーにルシウスは負い目があるが、自社で重職を務めるライトスキン美女と婚約中の身。こうして事態は混沌を極めることになる。

シェイクスピア諸作(特に『リア王』)と12世紀英国史をミックス&換骨奪胎した劇的かつ骨太なストーリーを軸に、音楽業界&ヒップホップ・カルチャー&黒人コミュニティを取り巻く諸問題――ドラッグディーリング、ホモフォビア(同性愛者差別)、成功した黒人男性が志向しがちな異人種間結婚、株式上場や企業買収、等々――が何重にも絡む、濃厚なドラマなのだ。(→ P2 へ 「もちろん、鍵は音楽だ」